第3話 現れたのは白い……? そんな事よりも早く――!!

 なんだかんだで王様の謁見? も済んで終始気を失ったままのヒマちゃんを抱え別室で待機したのち、約束の生活費を受け取りようやく目覚めた彼女と連れ立って裏門から城を後にした。


「そうですか。そういう経緯があってわたしたちは此処に連れて来られたのですね」


 教えてもらった城下町までの道中、王様との会話内容をヒマちゃんに話した。

 いろいろと思うところがある様子だったヒマちゃんだったけど『毎年召喚されるのは付き合いたてのカップルである』と聞いたときは頬を綻ばせていた。こんな状況であっても僕たちは両想いだったんだなぁと実感できて嬉しい。

 ちなみに選択肢アレに関しては伏せている――当然でしょ?


 今は一刻も早く街の宿にでも行ってヒマちゃんとイチャイチャしたいっ!


 なんて考えていたのがマズかったのか――


「にゃんにゃにゃにゃ~ん♪ にゃんにゃぁにゃにゃ~~ん♪」



「うわぁ…………」

「あ、あはは……」


 どこぞで聴いた脳天気な歌声に僕はげんなりし、ヒマちゃんは渇いた笑いを漏らした。


 どうせ無視はできないだろうと二人して歌声が聞こえた方へ振り向くと――


 なんかのマスコットキャラのような翼の生えた猫が宙を浮いていた。


 なんかのマスコットキャラのような翼の生えた……っ!?


「え? おまえ白猫だっけ!?」

「にゃはは。ツッコミどころはそこなのかい?」

「じゃあ、今から元の世界に帰してくれ。できないなら消えてくれ」


 帰れるものなら今すぐにでも帰りたい……至極当然の要求だ。


 しかし、このクソ白猫ねこ! 両腕( 前脚?)をクロスさせ――


「ざんね~ん! 冒険者に選ばれた君たちに拒否権はありませ~ん!」


 あの黒いのといい、この白いのといい本っ当に腹立つ~~っ!!


「あの、拒否権がないのは解りました。わたしたちはどうしたらいいですか?」


 やはり僕より落ち着いているヒマちゃんが冷静に尋ねると、あの黒猫と同様に白猫も歪んだ笑みを浮かべ、筒状に丸められた紙を投げ渡してきた。


「これは?」

「《この世界の》地図だよ」

「「世界地図!?」」


 取り敢えず広げて見てみると、知らない大陸や島国などが書き記された紛うことない世界地図。


 ふと一箇所赤い印が目に付いた。


「この赤い印は?」

「ああ、ルーヴェルライド王国の王城。つまりだよ」


 スタート地点、あの視察用と言っていた魔法陣か。


「冒険者ということはこの世界を旅すればいいのでしょうか?」

「あはは。それじゃただの旅行者だよ」


 ヒマちゃんの質問に白猫は笑いながら首を振る。


「君たちには《これ》を集めてもらうよ」


 そう言って取り出したのは七つのクリスタル。


「綺麗です」

「これは聖虹石せいこうせき。七つ揃えると願いが叶えられるという魔導具マジックアイテムで、既にんだ」


 なるほど。


「つまり帰りたかったらこの世界に散らばった聖虹石それを集めろっていう――お前たちがって事だろ?」

「あれ、バレた?」


 白猫だけに白々しい――いや、それは置いといて、そうでなければ


「お前たちが何故そんな事をしているかなんてどうせ答えるつもりはないんだろ?」

「短気なだけのニンゲンかと思ったけど意外と鋭いにゃぁ。その通りだけど、そもそもボクたちも細かい事情は聞かされていないけどねぇ」


 要するにと、なんてはた迷惑な……。


「あらかた七つのクリスタル、聖虹石だっけ? 六つの所在は現段階では判らないけれど、一つはんだろ?」

「わぁお、ボクが説明する手間が省けちゃったよぉ」


 パチパチと手? を叩きながら棒読みで褒める白猫――そろそろコイツを何処かへ処分しに行っていい?


「じゃあ君が最も知りたいについて説明しようかなぁ」


 僕が不穏な事を考えていることを察したのかどうか判らないけれど、おもむろに白猫がそんな提案をしてきた。

 正直、一番の関心ごと(悪い意味)で奴がと称する選択肢アレ


って何ですか?」

「あ」


 途中から静かに成り行きを見守っていたヒマちゃんが小首を傾げて僕の顔を覗き込んできた。

 はっきり言って彼女は知らなくていい、否知ってはいけない選択肢そんざい


 どうしたものか……と考えていたら――


「ここから先は女子禁制だからねぇ」

「え? きゃっ――!?」

「ひ、ヒマちゃんっ!?」


 白猫が手(もうそれでいいや)を振りかざした瞬間、ヒマちゃんの姿がその場から掻き消えた。


「お、おいっ! ひま、緋鞠をどこへやったっ!!」


 一気に血が上り白猫の首を締め上げた。


「ぐぎゅうっ……だ、ダイジョウ、ぶ。い、に転送しただけだよ~~っ!」

?」


 取り敢えず手を放す。


「けほっ。彼女には聞かせられないんだよねぇ。だから一時的に席を外してもらってるだけだから害はないよぉ~~っ…………多分」

「た・ぶ・んだぁ~~っ?」

「まままま、待って待って! だ、大丈夫! 大丈夫だからぁっ!」

「チッ!」


 もう一度締め直してやろうかとも思うけど、いちいち反応していたら話が進まない。それよりも漸く彼氏彼女の関係になったばかりだというのにイチャイチャできなくてフラストレーションが溜まって仕方がないんだっ!


「……君、どんどん性格悪くなって、ていうより乱暴になってない?」

「何か言った?」

「ナニモイッテマセン……」


 僕がヤバくなっているのは自覚しているんだからとっとと吐いて欲しいんだけど?


「え~と、ご存じの通りあの選択肢は男性側、つまり君にだけ仕組みです。そして選択肢の前の《Q》にはの意味があります」

「急に丁寧な説明で気持ち悪いけど……その二つの意味があるのは解った。それで、なんでばかりなんだ?」

「え~、う、上の方が申すには『その方が面白い』とぉっ――!?」

「お・も・し・ろ・いだぁ~~っ?」


 再び白猫の首を締め上げる。

 え、なに。『面白そうだから』? 本っっっっ当にくだらない理由でアレを? 僕はおちょくられてるのかなぁっ!?


「ぐぅっ、ぎ、ギブっ……しにゅっ、しにゅぅ~っ!」

「で? その選択肢は改善されるのかなぁ?」


 顔面蒼白で手をタップしてくる白猫は首をプルプル振り続けるってことは――


「そうかそうか。そんなに死にたいんだ。それなら仕方ないよね」

「ふっぐぎゅぐっ……にゃ、せ、せん……た……い、がいにも…………じょ、情報も~――」


 絞める力を強めると何やら聞き逃せない単語が出てきたから取り敢えず解放する。


「し、死ぬか……と、おもっ……」

「そんな事より情報って?」

「き、君は鬼k……――か、簡単に言えばこの世界に関することです。例えば六日で一週間だったり、細かい事だったらルーヴェルライド王国の通貨は《ヴェイラ》。一ヴェイラは日本円で十円だよ」

「そういう感じで教えてくれると?」


 威圧を加えながら訊ねれば捥げる様な勢いで首を縦に振ってきた。

 とにかく《Q》に関してはともかく、この世界に関する情報はチェックする価値はあるか。


「そ、それじゃぁ、ボクはこれで――ふぎゃっ!」


 そそくさと逃げようとした白猫やつの尻尾を引っ張り睨みつける。


「あの~、まだ……ボクに用が……?」


 用が、だって? 本当にふざけてるのかなぁ!?


「とっとと緋鞠――僕の彼女を返してくれないかなぁっ!!」

「ふへ? …………あ~~~~~~~~っ!!」


 うるせぇっ! 鼓膜が破れたらどうするんだって、文句を言う前に白猫が魔法陣を展開し、そこから消えていた(異空間にいたらしい)ヒマちゃんが現れ――


「ま、マサく~~~~~~んっ!」

「ぅおっ!」


 一目散に僕の懐に飛び込んで泣きじゃくるヒマちゃんに困惑する。


「こ、怖かったです……」

「怖かった……?」


 おい、どういう事だ! 確か異空間は大丈夫って言ってなかったか?

 問い詰めようかと白猫の方を向いた時には奴の足元に魔法陣が展開していてって――


「じゃ、じゃあねぇ~~っ!」

「あっ! 待て――!?」


 一足遅く白猫に逃げられ、辺り一帯に光の雨が降り注ぐ。


 あたり一帯に光の雨が降り注ぐ。


 辺り一帯に……――



「……――くんっ! 起きてください。マサくんっ!」

「んん? ヒマ、ちゃん……?」

「はい、緋鞠です。また急にのでびっくりしました」

「そ、そう……で、ここはどこ?」

「また寝惚けてるのですか? わたしたちは異世界に飛ばされてルーヴェルライド王国に来て、今は城下町に向かっている途中じゃないですか」


 そうだった。それで僕たちの目的は――


「願いが叶う聖虹石。僕たちが元の世界に帰れるようにんだった」

「わたしはお会いしていませんが、生活費まで用意して下さって、素晴らしい方だと思います」


 確かに、今思えば本当にいい人だったと思う。


 それはそれとして、


「寝ていた僕が悪いんだけど、早く城下町まで行こうか」

「はいっ!」


 僕たちは久し振りに手をつないで歩きだした。



 何度も言うけれど――僕は早く彼女ヒマちゃんとイチャイチャしたいんだぁっ!!

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