後藤さんには誰も敵わない!

でらお

プロローグ

 後藤 ゆりか。


 俺は高校に入学して間もなく、その名を知ることになった。


 教師も思わず感嘆の声を漏らす圧倒的な頭脳。

 他の追随を許さない飛び抜けた運動神経。

 一度目にすれば一生忘れることのできないほどの美貌。


 そのすべてを獲得している高校一年の同級生女子。

 それが後藤ゆりかだ。


 彼女が高校に入学してからというもの、彼女の噂が校内で流れない日はなかった。


 定期テストや小テストで満点に近い点数ばかり取り続けているだとか、

 体育の体力テストで日本記録に迫る好成績を残しただとか、

 美しすぎるその美貌に市内の男性全員が心を奪われてしまっただとか。


 噂を流す側の人間も、思わず噂を流してしまいたくなるくらいに、彼女の一挙一動には華があった。そんな後藤さんがうちのクラスに在籍している、それだけのことでものすごいことのように思えてしまえて。


 しかしクラスにはもう一人、見逃してはいけない人物がいる。

 それは他の誰でもない、僕である。


 クラスメイトや教師などは、後藤さんに注意を奪われ過ぎて僕の偉大さにいまいちピンときていないようだが、僕には溢れんばかりのポテンシャルがある。

 きっとその時がくれば、世界は僕を中心に回り始めるだろう。


 僕が道を歩けば道端の萎れた花は元気を取り戻し、僕が濁った水に手を沈めればその水はあっという間に透明になる。そういう予感が僕にはあるのだ。


 なにか証拠や根拠を出せと言われても、僕から出てくるものは何もないが。


 そういった類のことをクラスメイトの前でも構わず言っていると、入学して一週間も経たないうちに僕は孤立した。


 どうやらクラスの中で、僕は関わってはいけない人物として認定されてしまったらしい。誰も僕に話しかけようとはしてこないし、目を合わせてもくれない。

 山中で猿に出くわしてしまった時のような対応をされてしまうのだ。


 当然、そんな状況で僕に友達や恋人などできるはずもなく、高校一年生の一学期を孤独に過ごすことになった。僕が孤立している間にクラスでは続々と仲のいいグループが出来上がっていき、騒がしい教室の中で一人ぼうっと過ごすのが、僕の日常となってしまった。


 ただ、教室で一人ぼっちになっているのは僕だけではなくて。



 そう、後藤ゆりかもまた、騒がしい教室で一人過ごしていた。

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2024年10月2日 07:17
2024年10月3日 12:25

後藤さんには誰も敵わない! でらお @naoyaono

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