第8話 天下の大義賊の自己紹介(笑)

 えーと、とりあえずドロシーみたいに浮きたくないから、泥棒やってたことは隠すか。


「ロキ・ドラグニルだ。ロキと呼んで欲しい。前世では、ダンガンという国で騎士団長をやらせて貰っていた。短い間だが、世話になる。どうか、仲良くしてくれると嬉しい」


「ツバキ・ナルカミです。私の事は、どうぞツバキと呼び捨てにしてください。前世では、鬼狩りをしていました。好きな事は料理です。趣味は、前世ではお菓子作りをやっていました。三年間という短い期間ではありますが、何卒よろしくお願いします」


 前世はそうだなぁー……世直しの旅をしていたことにしよう。


「クーレリア・ジルエット。クウでいい。前世は歌手をやっていた。好きな事はお昼寝、特技は歌うこと。よろしく」


「ミカ・アルベール。前の世界では軍師をやっていた。以上だ」


 好きなこととか考えたことないな。役人が絶望する顔とか? いやいや、これも悪役っぽいからなしだな。ただでさえ、俺は課題のせいで印象がマイナス273度くらいあるのだ。自己紹介くらいちゃんとしないと、三年間冷え切った学生生活を送る羽目になってしまう。


「トウヤくん?」

「はい?」

「貴方の番ですよ」

「あれ、これって準備ができた人から自己紹介するんですよね? なんで俺だけ指名なんですか?」

「貴方以外、全員自己紹介が終わったからですよ。まったく、入学式といい貴方は何でそう決断が遅いのですか」

「マジか」


 気が付けば、クラス中の視線が俺に集まっている。

 ヤバい、一気に心拍数が上がってきたぞ。

 こんな事なら変に考え込まず、適当なタイミングで無難に名前だけ言って座れば良かった。

 大体、俺みたいな泥棒は勇者のように他人の視線に晒されることに慣れていないのだ。

 いきなり知らない世界に連れてこられ、知らない奴らの前で自己紹介しろと言われても無理に決まっている。


「何アンタ緊張してんの? だっっっっせ!」

「黙れ」

「いくら何でも沸点低すぎない?」


 ドロシーにだけは言われたくない。

 しかし、おかげで覚悟が決まった。確かにこの天下の大義賊、石川盗夜様がこんな事でびびってちゃ、前世に置いてきた子分達に馬鹿にされてしまう。


 ここはいっちょ派手に名乗りを決めて、この俺がちんけな下着泥棒なんかやるわけねえと、クラスメート達に知らしめてやらぁ!


「初めまちっ」

「「「ブ、ブホォオッ!」」」


 教室にいるクラスメート全員が吹き出した。


 ………………………。


「初めみゃっ」


 ダッッ!


「ああっ! 待って‼ 笑ってない! 笑ってないから教室から出て行こうとしないで!」

「そうだよ、大丈夫! 緊張するよね‼ 私も噛みそうになったからわかるよ!」

「誰か‼ 階段に向かおうとしているトウヤ君を捕まえるんだ! このままじゃ何かの拍子に記憶がフラッシュバックして、そのたびに死にたくなる様なトラウマが、トウヤ君に刻まれてしまうぞ!」


 ……みんな、良い人達ですね。

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