第7話 自己紹介

「さて、それではホームルームを始めます」


 アリス先生が教壇に立って、目の前に座っている俺たちを見渡しながらそう告げる。

 座席はあらかじめ決まっており、俺の席は教室の一番窓側の最後尾だ。

 座席自体は大当たりなのだが、いかんせん隣人がなぁ……。


「何見てんのよ」


 チラリと横目で隣を見ると、俺の視線にすぐ気が付いたドロシーが威嚇するように唸る。


「まさか、あんた私のパンツ狙ってんじゃないでしょうね」

「狙ってねーよ」

「ふんっ、どうだか! でも、残念ね! 私はそもそもそんなもの履いてないわよ!」


「「「ブフォッ!」」」


 その瞬間、俺のことをギラギラとした目で見ていた自称紳士二名が鼻血を吹き出して倒れた。


「トウヤくん、お静かにしてくれますか?」

「先生、何故僕が注意されるのでしょうか」

「鼻血出てますよ」

「そんなことは今関係ないでしょう!」

「関係しかない気がするのですが……」


 俺は鼻頭を押さえながら聞こえないフリをする。


「……はぁ、さて改めてみなさん。今後三年間、貴方達の担任をすることになりました。アリスと申します。まず、みなさんには、この学園で生活するうえで必需品となる制服と端末をお配りしましょう」


 アリス先生が手を叩くと、何もなかった机の上に洋服と長方形の石ころが現れた。

 魔法ってスゴイナァー。


「まず、この学園で過ごす間は、基本的に制服を着てもらいます。……念のため言っておきますが、下着の着用は必須ですよ」

「そんな! 危険よ!」

「そして、こちらは端末という通信機器です。離れていても誰とでも連絡できる便利道具とでも思ってくだされば結構です。学校からのお知らせも端末に送信されますので、こまめに確認してくださいね。他にも色々便利な機能がありますが、そちらは端末に入っている説明書を参照してください」


 ドロシーの抗議はさらっとスルーされる。


「そして、今後のスケジュールについてなのですが、みなさんには私の授業を受けてもらいます」

「授業とは何をするんですか?」

「そうですね。本日はみなさん初めましてということもあるので、簡単なレクリエーションなどいかがでしょうか?」

「レクリエーション?」

「簡単なゲームですよ」

「わーい、僕そういうの大好き!」


 元気いっぱいという感じな男の子が、両手をあげてはしゃぎ出す。

 死んでいるというのに、呑気なやつもいたもんだ。


「喜んでもらえて嬉しいです。それでは、自己紹介をしたら早速外に行きましょうか」


「はいはーい! 僕はロイゼ! 前世では勇者やってました! みんな今日から三年間よろしくねー!」


 元気な少年、もとい勇者ロイゼは立ち上がると、クラスメートに向かって太陽のような笑顔で手を振る。

 いや、前世って……一応、俺達はまだ死んでないはずなんだけど。


「ありがとうございます。大変素敵な自己紹介でした。それではみなさん、ロイゼさんみたいに一人ずつ立ち上がって自己紹介していってください! 順番は準備が出来た人からで構いません。ただし、タイミングが被った場合は仲良く話し合って順番を決めてくださいね」


 ザワザワとにわかに教室が騒がしくなる。

 う、うーん、俺こんな大人数の前でキチンと自己紹介なんてしたことないんだけど、上手くできるかな。

 前世で使ってた名乗りみたいなのはあるが、アレはだいぶ大言壮語してるしなぁ……。


 その時、意外なことに隣から席を立つ音が聞こえる。

 次はドロシーが自己紹介するのか。勝手なイメージだったが、こういうの苦手そうだと思ってた。


「私はドロシー! 魔女ドロシーよ! 前世では世界を滅ぼしてやったわ! よろしくね!」


「「「…………」」」


 教室中が凍りつく。

 魔法みたいに一瞬でロイゼが温めた場の空気を冷ましたドロシーは、何故そうなったのか分からないのか、キョトンとしながらひとまず座り首を傾げる。


「……さ、さあ、次の方!」


 アリス先生が無理矢理進行しようと、慌てた様子でそう言う。

 よしっ、何とかなりそうな気がしてきた。

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