第6話 石川盗夜の受難

「おい! 俺はまだ何もしてないだろ! こんな扱いは不当だ!」


 あまりに衝撃的な課題が出て俺が呆然としていると、突然死の危機に直面した猿のような叫び声をあげてドロシーが俺をぶん殴ってきた。

 その細腕からは考えられないような剛腕は、的確に俺のアゴに決まり、俺が倒れたまま身動きが取れなくなっていると、鮮やかな手並みであっという間に縄で拘束されてしまったのだ。


「黙りなさい! この変態が! 出会った時からずっと腹立たしい奴だと思ってたのよ! ざまあみなさい!」

「100%お前の私怨じゃねえか!」

「そんなことないわよ! ねえ、みんな! こんな変態は拘束した方がいいわよね!」

「そーだそーだ!」

「変態は山に帰れでござる!」

「くぅっ! 女子に言われるならまだしも、何故男子の方が率先して俺を排除しに来ているんだ!」


 よってたかってコイツら、とてもじゃないが英雄とは思えない! そんなんだから人生失敗したとか言われんだぞ!


「ぶわははははっ! 当たり前だろうが、この変態め! 我々は英雄であり紳士の集まり! 貴様のような変態と同じ人種ではない!」

「くそっ、お前ら覚えてろよ!」

「ぷーくすくすっ! そんな格好で何を言われようと、何も怖くないでござるよー! ほれ、悔しかったら何か反撃してくるでござるー!」

「こ、コイツらウザすぎる! お前ら本当にいいのか⁉︎ 俺をこのまま拘束しておくということは、コイツらと同列の人間だと認めることになるぞ!」


「「「うーん……」」」」


「なっ、一瞬で風向きがあちら側に傾き始めただと⁉︎」

「み、みなのもの! こやつの巧みな話術に騙されるなでござるー! このこの!」

「ぐわぁーっ! やめろぉ!」


 俺が男子生徒に理不尽な暴行を受けているのを流石に見かねたのか、アリス先生近づいてきた。


「クリスくん、ムツキくん。トウヤくんをイジメるのはそこまでにしなさい」

「で、ですが、隊長!」

「我々はただ、このクラスの風紀を守ろうとしただけです!」

「誰が隊長ですか! 私のことは、これからアリス先生と呼んでください。他のみなさんも、よろしくお願いします」

「アリス先生って呼ぶのは良いんだけど、実際そこの変態をこれからどうするの?」

「勿論解放します。トウヤくんも大事なクラスの一員なんですから、ドロシーさんも仲良くしてください」

「……まあ、一光年譲ってそいつと仲良くする気はないわ」

「おいおい、一光年って流石に俺のこと嫌いすぎじゃー……いや、そもそも妥協できてないだと⁉︎ 一光年も譲ってなお、俺が嫌いなのかお前⁉︎」

「見積もりが甘かったわね。まあ、仮に仲良くしようとしても、そいつの課題がある限り、私たちはそいつを信用できないわ」

「そ、それは、そのー……」


 アリス先生はダラダラと汗を流しながら、必死に言葉を探す。

 ……頼む。俺ですら反論の余地が見つけられないが、あれだけ力強くひねくれた俺の心を引っ張り上げたのだがら、同じくらいの強さでドロシーの主張を論破してくれ。


「……トウヤくん」

「はい?」

「心配しなくとも大丈夫です。そもそも課題は一人で取り組むもの。クラスメートなんて必要ありません」

「ちょっ、先生! アリス先生! つまり、それは諦めろってことですか⁉︎ あ、コラッ! お前ら俺をどこに連れて行く気だ!」

「あ、二人とも、そのままトウヤくんを担いでてもらえますか? みなさん、私達の教室に向かいましょう」

「はい! 分かりました!(その後、お前を埋める)」

「了解でござる!(間違っても生還できないよう、確実にトドメを刺した後にな)」

「た、助けて、アリス先生! さっきから俺にしか聞こえない邪悪な声が聞こえるんです! このままじゃあ、本当に俺の命が危ないんです! あと何をどう間違えたら、コイツらは英雄になれるんですか⁉︎」


「さあ、それでは皆さん、私に着いてきてください」


 最早、俺のことなど記憶から消し飛ばしたかのように無視するアリス先生は、そのまま教室とやらに向かってしまった。


「ちょっ、誰かたすけてぇぇええええええええええっ!」

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