第5話 タイトル回収
「ドロシー・キング! 課題は【美味しいお菓子の家を魔法なしで作る】! よって、専門科目は特殊科! アリス先生が担当するDクラスへ配属とする!」
「いやぁぁああああああああああ! 魔法なしでそんなのどうやって作るのよぉぉおおおおおおおお!」
絶望のあまり両膝をつきながら顔を上げて絶叫するドロシーを、呆れた顔でアリスが引きずっていく。
ちょっと愉快な奴すぎるだろアイツ。
しかし、あれだけオーバーリアクションができるのは、一周回って余裕があるようにも見える。
実際、与えられた課題も要はお菓子作りだ。確かに難しい技術は必要なのだろうが、かなり現実的に達成できる範囲だと言ってもいいだろう。
本当に無理難題な課題を出された奴らは、何も言えずただ白くなっていくことしか出来ないみたいだしな。
俺はボディビル先生の周りでポカーンとした顔で立ち尽くしている何人かを見る。
今までの様子を見て分かったことだが、【空を斬る】などの物理的に達成不可能と思われる課題を与えられた哀れな奴らは、ほとんどがボディビル先生のクラスに割り振られているようだ。
ちなみに、ボディビル先生は焦茶色の髪をオールバックでまとめた二メートルほどもある大男だ。
また、その肉体はまさに筋肉の化身とも思えるほどムキムキである。
確かに、見た目だけでも凄まじく強いことは分かるのだが、しかし果たして空を斬れるほどの人物であるかはかなり疑問だ。
「ジークフリート・ドラゴンスレイヤー! 課題は【ドラゴンと親友になる】! よって専門科目は農育科! ラクシュミ先生が担任するBクラスに配属とする!」
「なっ、ちょっと待て! 俺は今までアイツらと命をかけて戦ってきたんだぞ⁉︎ 仲良くなるなんて無理に決まっている!」
「ラートム・カナダ! 課題は【賢者の石を千個作成する】! よって、専門科目は発明科! ビクトル先生が担任をするCクラスに配属する!」
「け、賢者の石を千個も⁉︎ 材料があれば作れますけど、一個作るのに1年以上かかりますよ⁉︎」
今また一人、二人と哀れな英雄たちが、無理難題な課題を突きつけられて頭を抱えているようだ。
名前を呼ばれた担任の先生たちは、そんな生徒たちをいちいち呼びに行っては、自分たちの生徒が立っている場所へと案内している。あの人達も大変だな。
そして、ここまでの流れの中でもう一つ分かったことがある。
コイツらは全員、俺と生きている世界が違うということだ。
だって、魔法とかドラゴンとか賢者の石とか、俺の世界では存在しないものがゴロゴロ出てくるんだもん。
ちなみに、途中で説明があったが、言語の壁は学園長の魔法とやらで綺麗さっぱり取り払われているらしい。
あと見た目に関しても、生徒たちは全員がもっとも人間的に成長する時期である18歳になるよう肉体の年齢を変えられているようだ。
俺はここら辺の説明から深く考えることを辞めた。魔法って便利ダナー。
「クーデリカ・アレキサンドライト! 課題は【人の心を理解する】! よって、専門科目は特殊科! アリス先生が担当するD組へ配属とする!」
「……失礼な」
身長ほどもある長くて綺麗な深い青の髪をした美少女が、不満そうな顔でアリスのもとへ歩いていく。
うーん、また訳の分からない課題が出たな。まさに特殊という一言に尽きるだろう。
しかし、今のところ唯一特殊科だけは、現実的にクリアできそうな範囲の課題しか出されていない。
俺の中では、今のところ特殊科が第一志望だな。仮にもし戦闘科に配属されるようなことがあったら諦めよう。人生を。
まあ、最もどんな課題を与えられたところで、真面目に取り組むかは別の話だが。
「石川くん」
「はい?」
「貴方は来ないのですか?」
ふと周りを見渡すと、こちら側にはすでに誰もおらず、俺以外の全員が壇上へと上がってこちらを見下ろしていた。
ぼーっと考え事をしていたら、いつの間にか俺が最後の一人となってしまったようだ。
……しかし、何だか改めて気後れしてしまう。俺は英雄なんて呼ばれるような大した男ではないと思うし、実際にやっていたことはただの泥棒だ。
アイツらのように、胸を張って世界を変えるために行動しようとは、どうしても思えない。
俺の思いを察したのか、アリスは壇上から飛び降りると、俺のいる席まで近づいてくる。
「貴方は、自分がいた世界を見捨てるのですか?」
「あいにく、俺は世界に恩義なんて感じたことないもんで」
「恩義ですか?」
「ああ、そうですよ。俺は生まれた時から一度たりとも世界とやらの世話になった覚えはねえ。むしろ、あんな世界は一度ぶっ壊れた方がいいと思うほどだ」
「あら、奇遇ですね。私もですよ」
「はい?」
「それで、世界をぶっ壊すことは出来たんですか?」
アリスは平然と話を続ける。
「……いや、その前に死んじまった」
「ならば、今度はキチンとぶっ壊しましょう。そして、貴方が世界を作り替えるのです」
「マジで言ってる?」
「ええ、大マジです。貴方がそうしたいならそうするべきだと、私は真剣に思っています。その証拠にほら!」
アリスは突然鼻先がくっつきそうなほど、顔を近づけてくる。
か、顔が可愛すぎる! あと、何かいい匂いする!
理性が飛ぶ前に俺が慌てて顔を引こうとすると、ガッチリと頭を両手で掴まれた。
「私の目を見てください。これが嘘を吐いている人の目に見えますか?」
「ちょっ⁉︎ わ、分かった! 分かったから! 手を離せって!」
「なら、早く壇上に上がってきてください」
パッとアリスが離れると、さっさと壇上の方へ向かってしまった。
「あ、あのなぁ! 後悔しても知らねえぞ! なんたって、この俺はーー」
「ええ、全て知った上で私は確信しているのです。貴方は良い人だと」
「……あっそ。そりゃあ、随分とご立派な審美眼をお持ちで」
そこまで言うなら、もはや抵抗はするまい。
果たして、俺みたいなちんけな泥棒風情に世界を壊すだけの力があるかは知らないが、死ぬまでの暇つぶしとしてやってみるのも悪くはない。
ただし、やるからには全力を尽くす! これが俺の信条だ!
どんな困難な課題だろうが関係ねえ! この俺は天下無双の大義賊! 石川盗夜様だ!
盗ってやろうじゃねえか! 世界ってやつをよ!
「石川盗夜! 【課題は女性のパンツを一万枚盗み出す】! よって、専門科目は特殊科! アリス先生が担当するDクラスへ配属とする! ……ぶっひゃひゃひゃひゃひゃっ!」
さよなら、俺の人生。
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