第16話 北上 白夜の独白・上

「ふうっ。」


 席に着き茶をすすり、湯飲みをおいて息をつく。魔夜くんから聞かされていたが流石の強さだったな。魔術、魔法、、、。異能以前の超常の力。


「白夜さん、それじゃあ聞かせてくれませんか?」


 はは、お互い怪我はないもののかなり消耗したというのに容赦がないな。


「わかったワシから話そう。」


 あれはまだ、


「ワシが人殺しだった時代の話を。」







 異能が発現する前の話。ワシはただの武家の長男だった。父も母も優しく。妻にも恵まれて、子供もできた。愛娘だ。眼に入れても痛くない。そんな幸せの絶頂。戦争が起こった。二つの大国の覇権争い。いつか起こるものだとは思っていたが、間が悪い。我が国も巻き込まれ、徴兵されることになった。ワシが30の頃、娘と妻を残し戦争へ向かった。慣れない銃火器。そんなものより剣術の方が役に立つ。


 戦場に向かい何日か経った頃、軍のお偉いさんに目を付けられた。『君の働きには驚いたよ。まさか文字通り一騎当千。それも刀一本で。』。そう言って、ワシをさらなる地獄へ送り込んだ。移民を偽装して、敵対している方の大陸の頭を暗殺してこいという命令だった。だがそう上手くいかないのが現実で、発見され、仕方なく目撃者は全員殺した。ああ、ワシがヘマをしなければ殺さなくて済んだ。


 その後も戦争の最前線に連れていかれては切って、斬って、断って。気づいたらワシは超常の力をえるに至った。そう、ワシが最初の異能力者だ。無意識で異能を行使していた。戦場では戦車や爆撃機、艦砲射撃よりもワシが恐れられた。


 それは訳はワシの異能にある。のちに朧と名付けた我が異能。憶人の推測は全部あっている。どんな攻撃も異能発動中のワシには聞かない。さらに、憶人には見せなかったが、エフェクトを生成、爆撃のエネルギーを四肢に流し、音速をはるかに超えた一閃。それをエフェクトにして刀よりも長いリーチの斬撃を放って爆撃機も空母も一刀両断。高速、高火力、生存能力の三拍子そろった異能。それを武人のワシが持った。これは決して、傲慢などではない。ワシが最強だった。


 そのままワシが抑止力になって世界は平和に、、、、、、。とはならなかった。ワシが戦争を起こそうとする国を制圧しているときに本国が襲われた。そう、ワシ以外にも異能力者が現れた。戦場から文字通り、飛んで帰って制圧した。青年の名前を憶えていないが、「殺された父親の敵討ちだ。」と尋問を担当する部署の職員に聞かされた。


 平和のために戦ったつもりだった。だが違った。ただ火の粉を払ったつもりが、戦火を拡めただけだった。ワシは英雄ではなく人殺しだった。異能も使用し、戦車ごと、飛行機ごと、空母ごと切り伏せていたから、直接血しぶきを見ていなかったから、ワシは多少なりとも罪悪感からのがれることができていた。


 胸の痛みと罪の重さは関係ない。


 現実味のない力を持って麻痺していた罪悪感が、崩壊したダムのように、一気に押し寄せた。そこで、自害できたらどれだけ楽だったか。政府はそれを許さなかった。


「お前が死のうとお前の罪は消えない。ならば、せめて殺した数よりも多くの命を救えるよう、これを人類史最後の戦争にするためにもお前は戦え、最後まで。」


 そう言われた日にワシは自分を殺した。感情に蓋をした。窒息してしまうほどに、固く固く封をした。その後、戦場で能力者に出会うことが増えた。自国の危機に、英雄的に、現れる能力者。身体強化、重力操作、時間停止、自己再生、多様な異能力者と戦ったさ。その全員がワシに激しく憎悪していた。


 それでも、結果は見ての通り。ワシが今も五体満足で生きてることからわかるだろうが、相手にならなかった。年季が違う。正義が勝つなんて嘘だ。強い奴が勝つ。そうして、全ての国を屈服させ世界征服を成し遂げた。


 死屍累々の屍の上に立つワシは英雄だともてはやされた。勿論、悪魔、殺戮者、戦争犯罪者、化け物なんて罵詈雑言も浴びた。それでも、そんな事を言うのは遺族だけだった。その数は1割にも満たない。戦争の期間が短かったから戦死者もそう多くなかったからだ。


 そうして13年にも及ぶ長い戦争の末、世界はついに統一された。少しの記者会見。ワシは帰国するなり国に残した家族のもとへと向かった。だが、当然の報いと言うべきか。最後に見たのは6つの時だったが、


「「ああ、ああ、ああ、ああああああ!」」


 これは何かの間違いだ。そうであってくれと願っても、この眼に映っているのは、血を流して倒れている女性は、ワシの娘だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 月・水・金 07:00 予定は変更される可能性があります

Last Re:code 久繰 廻 @kulurukuru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画