第13話 古傷をえぐる
朱兎先輩が任務から戻ってきてから白夜さんの表情は険しかった。理由は聞いちゃいけない気がしていたけど。そういうことだったのか。瞳さんの『復讐です。紅 恋の。』という発言で納得がいった。それに話し合いも無事まとまった。ただ、その人について知らないといけないと思って、
「白夜さん、紅 恋って誰ですか?」
「おい、憶人。」
「あなたは何を後悔しているんですか。」
「・・・まれ、黙れ!」
ああ、それだけ白夜さんにとって大事な人だったのか。先輩止めてくれてありがとう。白夜さんの眼が物語っていた。それ以上聞くなと。大事な人だったから、その分傷も深いのだ。だからって、
「ダメじゃないですか。」
頬を伝って血がシャツの襟を赤く染める。ここで怯んじゃいけない。震える足を無理やり持ち上げて正面に立つ。そして、
「こんのクソじじい。」
「なっ!憶人。」
ぎちぎちの部屋に響く乾いた音。白夜さんは一切の抵抗をせず、顔に椛を残す。だけど、ここで終わらない。
「ぐふっ。」
鞘で殴り飛ばされた。マズイな。わき腹に
「白夜。憶人を傷つけるなら殺すと言ったわよね。」
魔夜がガチだ。普段温厚な魔夜だけど、魔夜は人間じゃない、魔人だ。異能力者で言うところのⅩランク。超越者だ。力に見合う器になろうと身体が進化し、そのスペックは人間をやめている。格で言えば白夜さんと同等かそれ以上。そんな二人が戦えばただじゃすまない。
「魔夜!」
僕は弱い、力が足りないから救えない。力があれば。魔夜はなんで強い?眼だ、魔眼だ。確かそう言っていた。一定以上の魔力量、素質があれば発現する。なら今だろ。今使えなきゃ意味がない。また魔夜を失うのは嫌だ。・・・・・・また?右眼が灼けるように痛み、僕は意識を手放した。
「・・・ろ、・い・きろ。おい、起きろ!!」
目を覚ますとそこは何度も夢で見た丘が広がっていた。鉄臭くて赤黒い、悪夢のような場所。
「やっと起きたか。俺。」
「君は僕?」
目の前には瓜二つというか全くの同一人物がいた。いや違う点が一つ。眼だ。眼が違う。目の前の彼の眼は蒼く吸い込まれそうなほどの輝きがあった。
「魔眼だよ。名前は」
ああ、そうだ。目の前の俺は忘れた時の保険だ。忘れちゃいけない俺の
「
「ああ、だけど片目しかないからな。そこは気を付けろ。」
「トバリアにあげたからな。それと俺の魔眼は片目でも問題ない。」
魔夜って名前は俺がつけたんだっけな。トバリア・マイヤー、訪日魔女。「魔術を教えてあげたんだから見返りは」って言われてつけたんだったな、
「な~んだ、そんなにハッキリ覚えてるなら、俺はもうお役御免だな。」
俺の表情から読み取ったのか俺はそう言った。ならこの一言で通じるだろう。
「最後に一仕事頼む。」
「あいよ。しっかりやれよオリジナル。」
目の前の俺は右眼を青色に輝かせ、
「おいおい、いくら目を覚ますためって言ってもオーバーキルじゃないか?」
「クソ野郎に情けをやるな、だろ?」
「ははっ、違いねえや。」
乾いた笑み死か出ない。敵からしたら俺ってこんなヤツだったんだな。痛みはない。俺の肉体は
「おい、憶人。」
先輩が駆け寄ってきている。ってことは時間にすると一分にも満たなかったか。が、もう魔夜と白夜さんが戦っている。幸い、まだ互いに手の内を探っているだけだ。魔夜は
「先輩、俺があの二人を止めてくるので先輩は家の保護に全神経注いでください。」
「お前、自分のこと俺っていうタイプじゃなかったろ。」
「あとで説明しますから。とにかく頼みます。」
ふう、とりあえず魔夜は俺が記憶を取り戻したことを伝えたら止まってくれるとして、白夜さんとは一度しっかりと話し合わないとな。
「まずは」
「
ああ、痛い。まだこの肉体に魔眼が馴染んでいないからだ。けど、この痛みは身体に影響はない。問題ない。耐えればいい。さあ増やそう。偽物だけど。
「
上限は12のままか。良かった。って余計なことを考えるな。13発確実に白夜さんにぶち込む。
「憶人!」
「その眼もしかして。」
「後は俺に任せろ。」
「遅いわよ、バカ。」
バカという言葉とは裏腹に、嬉しそうな今にも泣きだしそうな顔で魔夜は横を通り過ぎて行った。早く終わらせなきゃな。
「白夜さん。早速ですが、痛み分けといきましょうか。」
きっと、今から戦ったところで得られるものはない。俺も力を取り戻したし、白夜さんは元から強い。互いの古傷をえぐるだけだ。
「覚悟しといた方が良いですよ。今の俺は結構強いので。」
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