第12話 狼煙 side瞳

「さてと、朱兎クンは上手くやってくれたようだ。」


 私は朱兎クンの視界を通して政府の悪事に確信を得る。明らかに人体実験。いや、作られた人間を人間と読んでいいのかはわからないな。ただ、彼は間違っていなかったようだ。私の元同期のくれない れん(通称ベニコ)、彼を殺したのは政府の連中で確定だ。


「ねえランカ、コーヒー淹れてくれない?コハクちゃん、クッキーとって~。」


「はいはい、豆は何にする?」


「お任せで~。」


 やかんをコンロに乗せ、その間に豆を挽く。ずいぶん慣れたものだなと思う。まあ、かれこれ三年になるのか。今でもあの日のことを思い出す。


 彼らとの出会いは衝撃的だった。私がまだアパートの一室で過ごしていたころ、ノックされ、また宇野がカレー作ってきてくれたのかと思ったら血まみれの子供二人が立っていて、手紙を差し出してきた。その内容は、『先日爆発事故があっただろう。そう、ランカとコハク(オレが名付けた)が起こしたものだ。訳アリだとはわかってた。ただ、それでも見捨てることができなくて保護した。二人を頼む。』というものだった。私は友人の死を信じたくなかった。だから異能を、、、、、、使った。ためらいもあった。何も見えなかった。恋は死んだのだ。私の異能が強ければって何日も泣いたっけ。宇野も泣いてたな。ふふ、あいつの方が大泣きするもんだから自然と止まったよね。


「おい瞳、出来たぞ。」


 っと、思い出に耽っているとコーヒーのいい香りが鼻腔をくすぐる。うん、もう私よりも上手に淹れられるようになったんだね。


「瞳さん、悲しいの?」


 ああ、何か頬を熱いものが伝ってると思ったら涙だったか。久方ぶり過ぎて忘れていたよ。


「はは、私、子供の前で泣いて情けないな。」


 中身は30手前だってのに子供二人の前で涙を流して、鏡子ちゃんに中身は外見相応だねってからかわれちゃう。


「ごめん、ごめん。三時のおやつにしよっか。」


 今日は明日に備えて英気を養おう。白夜さんを説得しなきゃいけないんだから。まあ、あの人なら止めはしないだろう。


「恋、明日あんたのお師匠さんにあってくるよ。」


 私、宇野、恋の三人でとった写真にそう言って眠りにつく。







 翌朝、私はランカとコハクを連れ、治安維持隊へと尋ねた。ちなみに、白夜さんが家にいるのは異能で把握済みだ。


「白夜さん、私です。瞳です。お話があってきました。入ってもよろしいでしょうか。」


 帰ってきたのは端的に


「入れ。」


 の一言だった。いつもはランカの方が余裕そうにしているけど、ランカは戦闘経験が多いらしく強者特有の雰囲気というのに敏感で、最低でもⅧランクの異能力者で構成されるココは緊張してしまうらしい。背丈は私より少し高いぐらいだけど中身は私の方が上ね。


「ランカ、ここの人たちは中立だから、警戒しなくてもいいわ。それにいざというときは私が何とかするから。」


 二人の手を引き治安維持隊の基地兼住居にお邪魔する。


「鏡子ちゃん、全員呼んできてもらえるかな?」


「うん。わかった。」


 いつものふざけてる私じゃないからか、鏡子ちゃんは特に何も聞かずお願いを聞いてくれた。っと、目上の人をただ待たせるというのも失礼よね。


「白夜さん。今日はお願い、というより報告に来ました。」


 本人にはそのつもりはないだろうが鋭い眼光だ。私がこれからやることに対してうしろめたさを感じているからそう錯覚してるだけかもしれないが。


「まあ待て。みんな集まるのを待とう。」


 ふー、深呼吸だ。冷静になれ神林 瞳。らしくないじゃないか。それに頭がこれでどうする。どっしりと構えろ。


「それもそうですね。それでは席に着かせていただきます。」


 そう言って私たち四人は席に着く。1m×3m、八人分の長机、その短辺側に向かい合って座る私と白夜さん。連れの二人は私の両隣に座らせる。トタトタと二階から足音がする。全員そろったようだ。席が埋まる。一人初めましての人がいるから挨拶をしておこう。


「私は神林 瞳。AFPの隊長をしている。どうぞお見知りおきを。」


「ふ~ん、ねえ。」


 朱兎クンはなんとなく察しがついているらしい。彼とは長い付き合いだし、彼自身頭が切れる方だから、先日任務を受けた時から察していたか。


「朱兎クンが気づいているようだから単刀直入に言う。私はAFPを抜け政府に宣戦布告する。今日はそのことについて話をしに来た。」


 場が静まり返る。白夜さんの視線が突き刺さる。ほんと、この人は目だけで人を殺せるんじゃないか。冷や汗が止まらないよ。


「じっちゃんストップ。まずは話を聞こう。それからでも遅くないだろ。」


 朱兎クンから助け船を出されるなんて思ってなかったけど、おかげで首の皮一枚繋がった。が、白夜さんは甘くない。いきなり核心をついてくる。


「動機はなんだ」


 嘘をついてもどうせバレる。素直に言うしかないな。殺されたらその時はその時だ。


「復し/


「復讐と」


 怒気をはらんだ低い声。首元には刀が薄皮を切ってそこにある。何も見えなかった。思考加速でいざというときに備えていても対応できなかった。だけど、ここで引くわけにはいかない。私の中でこの計画は自分の命惜しさに諦められるほど軽いものじゃないんだ。


「復讐です。紅 恋の。」


 白夜さんはただ私を見つめるばかり。少しの膠着だが一秒が何分にも何時間にも感じる。心臓がうるさい。


「おい、やめとけって。」


 私の視界の外でランカが朱兎クンに抑えられている。


「朱兎、下がれ。」


「わかったよ、じっちゃん。」


 力が抜け椅子を倒して床に尻をつく。が、まだ終わりではない。ここからが本番だ。問答が始まる。


「政府と戦える戦力は。」


「APFの私直属の部下が50人ほど。それと政府に家族を抹殺された人達の中から特に戦える人間を30人。」


 最低でもⅦランク以上。私と宇野はⅩランク。高位異能力者の多くは味方につけた。


「民間人への被害は。」


「戦闘の際、避難誘導をするつもりですが無いとは言い切れません。」


「我々に何を望む。」


「民間人の救援・保護をお願いしたい。」


「わかった。」


 問答は終わった。生きた心地がしなかったが手ごたえは悪くない。どうだ。


「治安維持隊の隊員を貸し出そう。」


「それって。」


「ああ、協力しよう。」


 こんなに上手くいっていいのか?私の予感はよく当たる。本当に。

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