第10話 異能無効の対処法

「さあね。ただ、背後に気を付けなと言っておこう。」


 僕はそれを無視したことを後悔した。ガコン。後頭部に強い衝撃を受ける。金属板?攻撃が飛んできた方を見ると、そこには慌てるマッチョエプロンと腕にロープを巻き付けた鏡子さんがいた。そして、視線を近くに戻すと結界の内部にナイフとフォークが散らばっていた。つまり、そういうことだ。最初、ツクモンで直接僕を攻撃しようとしてきた鏡子さん。待ったをかけたが僕が気づかなかったのだろう。そして、ツクモンが無力化されたことから僕を止めるのに異能で直接攻撃できないと気付き、宇野さんから鍋のふたを強奪。ロープツクモンに巻き付けて遠心力を最大化、そのまま円盤投げの要領で投擲。


「そろそろ、意識が。」


 もう限界だな。視界が回る。気分が悪い。


「ふふふ、作戦通り。」


 憎たらしい銀髪ロリめ。とは言え僕にこれ以上何かするだけの体力は残っていない。視界が真っ黒になる。結界は崩壊、当然だが魔法コードも決壊。そのまま重力に従って、拳を振り上げた後方に倒れ込む。床は硬いんだけどな。たんこぶは覚悟しておくか。


「これぞ、試合に負けて勝負に勝つってやつさ。お疲れさん。」


 意識が途切れる間際。背中に柔らかいものが当たった気がする。







「はっ!!」


 目を覚ますと僕は丸太、、、ではなく宇野さんの膝を枕にしていたようだ。


「お、眼を覚ましたね。気分はどうだい?」


 膝枕の相場は女子じゃないんですか。とは言えず。


「ありがとうございます。そうですね。どこも異常はないと思います。」


 と感謝を伝えておく。すると宇野さんの肩からピョコっと顔をのぞかせる人がいた。


「お、やっと起きた。佑大がを使ったってのにずいぶん時間かかったな。」


 佑大?宇野さんの下の名前か?そういえば、宇野さんを最強のヒーラーなんて言っていたけど治癒能力の異能なのか?


「宇野さんの異能って何なんですか?」


「うーん、まあボクの能力はバレても問題ないから教えちゃおうかな。」


「えー。秘密にしとこうよ。その方が面白いじゃん。」


「いやいや、せっかく勝ったってのにご褒美なしじゃかわいそうだろ。」


 と少しのやり取りののち、ゴホンと咳払いをして、


「改めまして、ボクはAPF副隊長の宇野 佑大。異能は右雑無双ザッツ・オール・ライト。ざっくり言うと右手で行う動作の効果を超強化するって異能だよ。」


「そうそう、だから宇野の料理はすんごく美味しいし。腕を薙ぎ払えば視界内の物を吹き飛ばせるし。右ストレートは一撃必殺。しかも、右手を当てるだけで大抵の傷は治せるんだ。すごいだろ。」


 ははは、どチートじゃないか。下手するとこの銀髪ロリよりも強いんじゃないのか?それに、体格からして異能だよりというわけでもないんだろう。


「じゃあ、なんで宇野さんが隊長じゃないんですか?」


「ボクは・・・・・・。」


「宇野は優しいからな。雑魚とは戦えない。殺しちまうからな。だから実力があっても実績がない。それで副隊長ってわけだ。」


 身も蓋もない言い方だが、それが事実なんだろう。けど、それが悪いことだとは言わない。本当はアタッカーのくせしてサポート専門なんて言ってる人が治安維持隊にだっているんだ。それに、宇野さんは治癒能力もあるわけだし、最強のヒーラーも誇張じゃないしな。


「ところで、ボクからも一つ質問をしてもいいかな?あの黒い靄は何だったんだい?」


 うぐ、痛いとこをつかれた。魔夜には魔術については秘匿しろって言われてるからな。そういう異能って嘘をつかなくては。瞬間移動ができて、異能の無効化ができて、射撃ができる能力。


「僕の異能は人外喰らいヒトデナシクライっていうんですよ。異能を喰らって吐き出す、そういう異能です。異能をストックして使えます。喰らった分しかストックできませんがね。そこそこ使い勝手がよくて好きなんですよ。」


 どうだ、だませたか。一応、これで説明できるはずだけど。


「ふーん。じゃあなんで、結界のようなものを展開したのかな?」


「目に見えないものに嚙みつけますか?口を開いて待つでしょう?」


「なるほどねえ。英雄はそんなの考えなさそうだけどね。」


 ふ~んとまだ完全に信じ切ったわけではないが納得はしたらしい。我ながらよくこんなにスラスラとでまかせが出るものである。


「じゃあ、私の異能もわかっちゃったんだ。」


「ええ、未来視ですよね。初撃を捌かれたとこからめぼしはついてましたが。」


 宇野さんの肩をグワシと掴んで立ち上がる瞳さん。当然のように一切動じない宇野さんはさすがだと思った。


「よしっ。それじゃみんなでお昼にしようか。」


 そうして始まった食事会。宇野さんお手製カレーはおいしかった。宇野さん曰く、「さっきは言い出せなかったけど、料理の腕は異能と関係ないから。」だそうな。かっこいいマッチョも努力は認めて欲しいらしいと親近感がわいた。その後、カレーをタッパーに詰めてもらって、帰宅する。基地を出るとすっかり茜色の空。


「憶人クン、また遊びに来いよ。今度はもつれておいでよ。」


「はいはい、朱兎先輩も連れてきますよ。」


 僕がそう言うと瞳さんの表情が一瞬曇った。大したことではないのかもしれない。だけど、胸騒ぎがする。だけど、仮にその嫌な予感が本物だとして、何もできないんだ。


「それじゃ、そろそろお暇させてもらいますね。」


 APFの面々に見送られ、ツクモンに乗って基地を後にする。


「よかったですね。今日の夕食の準備が楽になりますね。」


「いやいや、これは明日の朝食よ。カレードリアにしましょうか。」


 鏡子さんも満腹の時は荒い運転をしないらしい。次からは鏡子さんを満腹の状態にしてからが良いですよって先輩に教えといてやろう。今日一番の収穫だったな。


 にしても師匠って誰のことを。魔夜のことは知らないはずだし、、、、、、!?。


「鏡子さん。瞳さんの異能って知ってます?」


「ん?瞳ちゃんの異能?確かねえ『私はなんでも知っている』って言ってたわよ。もし本当ならすごいけどね。」


 ははは。まさかね。そんなわけはないと思いたい。


「ただの未来視の異能じゃなさそうですね。」


 一抹の不安を残し僕らは治安維持隊へと帰還する。

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