第9話 未来視持ちの倒し方

「ああ、そういうことだったのね。ごめんなさい。」


「いえいえ、僕も大人げなかったですから。」


 あの後、ロープと格闘すること5分。脳震盪を起こした女性隊員の手当を終えた宇野さんが説明してくれて事なきをえた。とはいえかなり強く縛られたためロープ跡が残った。


「それじゃ、さっそく組手を始めよー!」


 能天気な瞳さん。ははは、組手の相手にあなたは含まれるんですかねえ。


「今日はねえ、勝ち抜き戦トーナメントだよ。治安維持隊からは憶人クンが参加してくれまーす。心配は鏡子ちゃんに任せるよ。相手を戦闘不能にしたら勝ち。怪我は心配しないでよ。うちには最強のヒーラーがいるからさ。」


 そう言って指をさす。その先にはピンクのエプロン姿の宇野さんが炊き出しをしていて、あははと照れくさそうに後頭部を搔いている。どういう能力なんだろうな。


「それでは第一試合。憶人クン準備は出来たかな?レディー・・・ファイッ。」


 瞬殺だった。相手は身体強化系の異能だったにも関わらず瞬殺だった。身体強化系の異能の方がオーラを効率よく運用できるため身体強化の恩恵も大きくなるはずだが、朱兎先輩の方が強かった。力も重さも瞬発力も全部先輩の足元にも及ばない。二人目はレーザーを放つ異能持ちだった。火力はあった、展開も早かった。しかし、やはり先輩の方が強い。三人目は強かった。瞬間移動能力。それもかなり洗練されていて、苦戦はした。しかし、僕が異能を使ってしまえばすぐに決着がついた。強かったには強かったが、理不尽じみた強さではなかった。


「ふう、ウォーミングアップにはなったかな。」


「よし、勝ち抜きトーナメントやめ。このままだと朱兎君の時みたいになっちゃうからね。対戦相手には悪いけど、代打で私と戦いなさい。というか、やつ当たりしたいから私にやられろ。」


 ははは、朱兎先輩何やってくれてんだよ~。まあ勝つがね。


「ただ、僕の能力を見て、そっちは秘密なんてずるくないですか?」


「ごめんねー。これはトップシークレットなんだ。国防のかなめだからね。」


 そう言って、観客席の方から飛び降りてきた。その程度の身体強化は出来るのか。まあ、異能なんて相性次第でジャイアントキリングだってできるんだ。だから、朱兎先輩も白夜さんも異能を極力使わない。それと一緒か、はたまた使用がバレないような異能か。見極めなきゃな。


「じゃあ、始めましょうか。」


「いいよ。」


 まずは様子見。不意打ちメインで。


魔弾バレット


 重ね掛けはしない。単発の魔弾バレット


「甘いね。」


「なんで避けれるんだよ。」


 手元に七つ、瞳の背後に密着させて一つ展開して発射した。朱兎先輩でも魔力は感知できない。視界に七つも展開させた。隠し玉があるなんて考えるわけねえだろ。だってのに全部避けやがった。


「ははは、びっくりした?お見通しだよ。いえーい、会場のみんなー、盛り上がってる~。」


「「「「ひっとっみーん!!」」」」


 野太い歓声。僕なら嬉しくないね。ふう、とりあえず整理しよう。今の攻防で考えられる異能の候補としては読心もしくは未来視。考えたくはないけどきっと後者だろうな。なら、先輩はどうやって倒した?相手の体力切れか?先輩ならできるだろうな。圧倒的物量で瞬時に叩き潰す?それも先輩ならできるだろう。ただ、僕にできるか?否だ。僕はそんな理不尽じゃない。僕の異能に攻撃力は無い。勝てる異能ではなく、負けない_負けを認めない異能なんだ。ならどうする?


「予告する。ブラフと受け取ってもらっていいぜ。今から5分以内にあんたを倒す。」


「はは、怖いねえ。ただし、現実可能ならねぇ!」


 急に攻めに転じた。どうやらなら勝てるようだ。焦ってるのがその証拠だ。安心する。


「僕はヒーローってガラじゃない。無謀じゃない。奇跡なんか信じない。計算づくであんたを詰ませる。」


 僕の強みは負けない異能でも初見殺しの魔術でもない。反則的な相手には反則的な方法を、理不尽な相手には理不尽な状況を押し付ける。力で勝てないなら知恵を回せ。僕の手段カードは三つある。一つ、異能を使ったダメージの無効化及び瞬間移動。二つ、相手からしたら未知数の魔術。


「いつまでちょこまかと逃げ回って弾幕を展開するのかなぁ。ガス欠しない。」


 解ってるくせに白々しい。僕が何のために魔弾バレットを床に撃ってるかなんてわかってるくせに。


「初めては先輩にあげたかったんだけどな。」


 三つ目、魔夜と違って僕は未熟だから結界が必要だけどな。右手で左目に魔力を込め発動させる。


魔法コード人外喰らいヒトデナシクライ発動エンチャント


 結界内部の足元が赤黒く染まりうごめく。この結界内部において人智を外れた能力すべてを喰らう。異能もオーラも魔術も魔法も魔力も、この中じゃ使わせない。まあ、僕は使えるけどね。あとは三分以内に体格的に劣ってるこの人を殴る。焦らなくてもいい。一撃で僕の勝利が決まる。相手には抵抗する力はない。僕の勝ちだ。一歩ずつ近づく。


「こっからどうするかわかります?」


「さあね。ただ、背後に気を付けなと言っておこう。」


 もしかしたらなんて思ったけど、どうせブラフだ。そう結論付け、僕は拳を振り上げる。そして。

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