第2話 ドタバタモーニング

部屋に差し込む朝日、自室の天井、朝食の香り、おそらく震源が庭の振動、そして


「憶人、おっはよー。」


「ぐふぉあ。」


 白髪幼女の急襲により、僕の感傷センチメンタルは終わりを告げた。







 僕に親はいない。強いていうなら、目の前でテーブルに肘をついて、僕を見てにまついているこの幼女が僕の母親みたいなもんだ。


「おはよう、憶人くん。それに魔夜ちゃんも。」


「おはようございます、鏡子さん。」


 額の汗を手の甲で拭いながらも挨拶をしてくれるこの黒髪ロングの女性は北上 鏡子きょうこさん。僕の3つ上のお姉さん。英雄_北上 白夜の孫娘だ。


「それじゃあ朝食にしましょうか。おいでツクモン。」


 鏡子さんの呼びかけに応じてキッチンから飛んでくる朝食。そう、これは鏡子さんの異能。


「相変わらず便利な能力ですよね。それと朝食ありがとうございます。」


「お礼ならツクモンたちに言って。今日はあの子たちが作ったんだから。」


 自立制御型の同時複数使役っていう異能の中でもかなり強い部類に入る異能を家事に使ってるけど実際、この異能が無ければここは回らないんだよなあ。ていうか風邪ひいてても四人分の食事は必ず作る鏡子さんがなんで今日に限って・・・・・・!?


「あの~、もしかして今日って、、、、、、。」


「そうよ、憶人。今日は待ちに待った入隊試験の日。って言っても試験会場ここだけどね。」


 来週だと思ってたのに。だー、鏡子さんが忙しくしてる時点で気づくべきだった。


「急いで食べなきゃあ。朱兎を待たせちゃうぞ。」


 煽ってくる魔夜。今はそんな暇ないけど、後で絶対仕返ししてやる。とにかく今は朝食を掻っ込む。


「そんなに慌てたら魚の骨、のどに引っ掛けますよ。」


 心配する鏡子さんだが、本気を出した僕なら平気だ。米を口いっぱいにほおばって、咀嚼しているうちに、すささささ。箸を魚のふっくらとした身に入れ骨だけを綺麗に抜き取る。そして朝食を完食。


「ごちそうさまでした。ツクモン、よろしくね。」


 椅子から立ち上がり、時計を確認する。8:27、試験まであと3分。自室のある二階へ駆ける。


「今日はこれだな。」


 パジャマを脱ぎ捨てベッドの上に投げ捨てて、勝負服を着こむ。おっと、手袋も忘れずに。窓から庭へ飛び出す。赤髪低身長、朱兎しゅと先輩めがけて。


「うさちゃん先輩、待たせた?」


「お前、いい加減おれを敬えや。」


「先輩が僕に勝てたらね。」


 身長だけでなく器も小さい先輩はキレた。足元から赤いオーラが立ち上がる。手をぎゅっと握りしめ肩をわなわな震わせて、


「いやいや、それはおれのセリフだから。」


 朱兎先輩のオーラの量が一段階上がる。右足にクレーターができたと思ったら、眼前に身をひねった先輩がいて、飛び後ろ回し蹴りが放たれる。


「不合格にすんぞこらぁ。」


障壁シールド・展開」


 ほぼ反射で右手を前に突き出す。タイミングは完璧。インパクトの瞬間を潰す。障壁シールドに突き刺さって静止してなお危険シグナルびんびんの右足。


「っち、以前にも増してバカみたいな威力ですねぇ。」


前はタイミングがずれたせいで貫通されたってのに、もう僕のミスとか関係ないレベルまで強くなってんのかよ。


「お前も展開がはやくなt」


 相手が先輩だしな。出し惜しみは無しだ。


障壁シールド破棄バッシュ


 透明の薄い破片。先輩はオーラを両腕に回してクロスガード。


魔弾バレット解砲ファイア


 こうして、僕の対異能力者組織_治安維持隊の入隊試験が始まった。

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