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久繰 廻

第1話 藍色にアイロニー。

 僕_藍花 憶人は今、夢をみている。きっと夢だ。だって、こんな景色を僕は知らない。知っているはずがない。なんせ、僕は異能大戦後に生まれたんだ。そして、その後、戦争は起こっていない。だけど、地平線まで広がる赤と黒、おびただしい数の死体。空は灰色とオレンジ。それに、、、、、、


「ごほっ、ごほ......。ゔぇ。」


 血と吐しゃ物の匂い。熱と灰が肺を焼く。それがあまりにもリアルで。懐かしくて。これが夢だなんて思えない。


 ペシャ、胃が空っぽになってとりあえず吐き気は収まった。冷静になった頭で思考する。そして思い出す。僕がこれを夢だと言える根拠。そんなの一つしかない。


(これで何度目だ。)


 これが夢だと知っているから。一度や二度のことじゃないから。三桁はいっただろうか。おかげで大体、どんな時にこの夢をみるかもわかってきた。何か幸せな日の夜だ。そして、


「行かなきゃ......」


 僕の意思とは関係なく体は動き、声帯を震わせ、立ち上がって、グロテスクな平野を駆ける。体を動かせはしないが感覚だけはある。転がってる骸ほどではないがこの体もボロボロで、体中傷だらけで、筋繊維はズダズダで、一歩進むごとに激痛が走る。死んだ方がましだ。それでもこの体は走る。狂気の沙汰だ。そうして、丘の上で立ち尽くす少女が視界に入るや否や。


「××××!!」


 やめろ、声を張るな。その振動だけでも傷に響く。


「うおおおおおお~!!」


 特に損傷がヒドイ右足に全身全霊の力をこめ、トビそうな意識を強く保って、地面を蹴り飛ばす。少女の視線の先にあったのは成人男性の腕大の金属片。大きさ、鋭さ、どちらか片方でもあれば致命傷になりうるそれを前にただ立ちつくす少女に対してイラつきを覚える。そのまま慣性に任せて少女を突き飛ばす。当然、そんなことをすればこの肉体は運動エネルギーを失い、速度は落ちる。グブシャー。金属片が足に刺さり、骨を貫き、貫通していく。


「ぐああああああ。......ううっ。」


 血は止まらない。穴が大きすぎるから抑えても無駄だろう。痛みに叫びたくなるが、叫べば痛くなる悪循環。耐える。


 視界の左端に貫いていった金属片がほんの少しだけ顔をのぞかせ残りが地面に突き刺さっているのが映る。


 我に返ったのか、少女は立ち上がり僕の方へと駆け寄ってくる。が、表情は顔にノイズがかかって見えない。体から熱も力も抜け、そのまま仰向けに倒れる。


「●●●。......ねぇ、●●●。死なないで、私をひとりにしないで。ねえ、ねえってば。」


 膝枕をして、顔を覗き込んでくる少女。長い銀髪が僕の頬を撫でる。


「悪いな××××。”俺”ももうここまでだ。最後にこれを、、、、、、。」


 胸元から取り出したのは青い宝石で装飾された髪飾りだった。それを少女につけようとして、、、、、、


「・・・・・・。」


 そこで夢は途切れる。ベッドの上、生暖かい雫が頬を伝う。窓から見える月は少し青白かった。まだ、夜だ。もうひと眠りしよう。

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