寂しがりや
N氏は春から一人暮らしを始めた。
元来寂しがり屋の彼は実家から出たくなかったのだが、就職先の都合で仕方なく一人で暮らすことになった。高校も大学も、どれだけ遠くても実家から通っていたN氏にとって、初めての一人暮らしであった。
駅から近いアパートに住むことになったが、やはり慣れなかった。
未婚者である彼は毎晩友人を呼び遅くまで酒を飲んだが、それでも寂しさは薄れなかった。
「誰か、誰でもいいから自分と一緒に住んでくれないものか」
そのうち、どうにも自分以外の誰かが部屋に居るような気がしてならなくなった。
「一人暮らしが辛くて、とうとう幻を感じるようになってしまったのか。そろそろ一度実家に帰るべきか」
N氏は就寝前、そんなことを思いながら布団を被った。しばらくすると、ず、ず、と何かが這うような音が聞こえる。気味が悪くなり、N氏は起き上がろうとするが体に力が入らない。
これは金縛りと言うやつではないか。N氏は冷や汗をかきはじめた。
ず、ず、ず。
濡らした布を引き摺るような音が、すぐ側まで迫ってくる。
ゆっくり、ゆっくりと誰かの気配が近くまでやってきて、布団の上にのしかかってきた。
月明かりに照らされ、白い姿が浮かびあがる。
黒く長い髪の、白装束の女がいた。
その濡れた両手に、N氏は首を絞められる。
N氏は堪らず声をあげた。
その顔はどこか嬉しそうだった。
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