第30話

焦燥感にグッと唇を噛み締めていると、弟さんがふいに距離を縮めて、私の手を掴んだ。


「っ、いっ、た」


爪がくい込むほど強く握り締められた、痛みに呻くけどまるで離さないと言わんばかりに更に強く力を込められてしまう。


痛みに涙を浮かべると、顔を近付けて首を傾げた。


「紗奈は僕たちのものなんだよ。僕たちが見ていない時に何かあったら、って思うと心配で堪らない。なのにそんな僕たちの気持ちを無視するの?」


「っ! い、たい……は、離して……っ」


「駄目だよ。絶対に離さない」


「っ」


ジンジンと痛む手に我慢なんて出来るわけもなく。必死に頷いているけど、力を弱めてくれそうにない。

佐久間さんはただ面白そうに見ているし、1番下である玲央くんに至っては私のことは眼中に無いとばかりに怯えている里奈の方を見ている。



「わかった、私が悪かったわ……だから、お願い力を弛めて……」


「ふふ。紗奈ちゃんも泣いちゃったし、離してあげたら?」


必死に訴えると佐久間さんが見かねてかそう言ってくれた。


「紗奈が聞き分けがないから」


ようやく力が緩んで、勢いよく手を引っ込める。

痛みで麻痺する手を見ると、爪がくい込んだからか薄らと血が滲んでいるし、赤くなっている。

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