第29話
よたつく身体をなんとか動かし、震えている里奈の元へと向かい、その小さな身体を抱き締める。
この腕に里奈がいることに安堵して、頭を撫でると里奈がグズグズと鼻を鳴らしながら私の体に顔を埋めた。
「里奈、大丈夫よ。早く帰ろう」
「っ、う、うん。」
早く帰ろうと真由を促して、佐久間さん達に何も言わずにそのまま出ようとする。
「紗奈ちゃん、玄関までお見送りするよ。」
「っ」
佐久間さんと弟さんが近寄ってくる気配に、ビクッと肩を震わせる。
遠慮したい所だけど、きっと言うこときいてくれないのだろう。
里奈が怯えたままひっ、と悲鳴を上げるのを痛ましく思いながらドアを開けた。
「ひっ……れ、玲央く……っ」
先に立っていた佐久間さんの2番目の弟ーー玲央くんに眉根を寄せた。
何を考えているのか分からない瞳がただ真っ直ぐと里奈を見下ろしている。
里奈を隠してあげると、不愉快と言わんばかりに睨まれてしまった。
「兄さん本当に帰らせるつもり?」
「玲央が言ったんだよ。今日は帰らせてあげてって」
「……それは、そうだけど。やっぱり、」
「玲央くん、心配しなくても大丈夫だよ。僕が着いていくから」
予想もしていなかった言葉に思わず振り返る。
「え……!?」
「だって何かあったらどうするの? 俺も一緒に行きたいけど、準備もあるから薫だけに行かせるんだよ?」
「何かって……日中に何かあるわけないじゃないですか」
これ以上、私と里奈を追い詰めないで欲しい。
弟さんが着いてきたら、休まらない。
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