第2話

ずっと真斗くんの言いつけを守ってきた。


真斗くんのいない間に外に出ることだって出来た。だけど、それをしないでずっと守ってきたのは真斗くんのことが好きだから他にない。


でも、流石に違和感がある。


真斗くんは私が外に出たい、という度顔を顰めた。でも、私が何度も懇願すれば渋々と言ったように了承してくれた。


「……」


私の事を好きでいてくれている事は分かってる。愛してくれてるってことを。


だけどこの生活は”普通”じゃないと思うんだよ、真斗くん……。




****



「あ」


何もすること無く、テレビをただぼーっと眺めているとふとスマホが振動していることに気付いた。


誰からなんてそんなのたった1人しかいない。


このスマホには真斗くんたった1人しか登録されていないし、私の連絡先を知っているのは真斗くんだけだ。


何かあったのかな……。

慌ててスマホを手に取り、通話ボタンをタップする。



「もしもし真斗くん?」


『梓ごめんな』


「? 何かあった?」


急に謝られて困惑するけど、苦々しい声を出す真斗くんに何かあったのだろうと問う。

ため息をつき、とても嫌そうな声で返ってきたのは仕事の書類の事だった。


『俺の机の上に書類があるんだけど、会社まで持ってきてもらえるか? 本当は俺が取りに行きたいんだけど、時間が無くてな』


「分かった。大丈夫だよ」


『あぁ、さんきゅう。いいか、絶対に誰かに話しかけられても無視しろよ。それと何かあったら連絡してくること』


「うん。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」


心配そうな真斗くんを何とか宥めて、私は急いで書類を大切に手に抱えて軽く身支度を整えこの部屋から出た。


真斗くんには悪いけど、書類を届ける為とはいえ1人で外に出れることが嬉しかった。


1人で外に出れるのは真斗くんと付き合う前までの事だったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る