第3話

真斗くんの務めている会社は分かってるけど、行くのはここに居るようになってから1年半ぶりぐらいだ。

道を覚えているかどうか怪しいけど、この書類が無くて困っているのにモタモタしていられない。


ずっと引き出しに閉まっておいたお揃いで買ったキーホルダーを付けた鍵を手に取る。

そっとなぞる。やっと使い道がきたんだ。


一応お財布とスマホをポシェットに入れて、慌てて外に出た。


この間、何とか真斗くんに訴えて制限ありだけど外出出来たばっかりだったから、こうも早くにもまた外に出れたことが本当に嬉しい。


一生懸命仕事を頑張ってる真斗くんに、嬉しいと思ってしまっているのは申し訳無いけれど。


何とかうる覚えで会社に着き、スマホで真斗くんに掛けると直ぐに外に出てきてくれた。


「梓!」


「! 真斗くん、はい」


大切に抱えていた書類を手渡すと、真斗くんがチラッと確認してからにこやかな笑みを浮かべた。


「ありがとうな。助かった。本当はこのまま見送ってから仕事をしたいけどそんな時間も無くてな」


「ううん。大丈夫だよ。また来た道戻ればいいだけだもん。1人で帰れるよ」


「……誰にも声掛けられ無かったか?」


「うん。大丈夫だったよ」


「そっか。帰りも絶対に誰とも目を合わさず、声掛けられても無視して帰れよ」


真斗くんの真剣な声のトーンに、息が詰まりそうになったけど何とか頷いた。

そんな風に念押ししなくても、大丈夫なのに。信用してくれないのかと思うとちょっぴり悲しい気持ちになりそうだ。


必死に頷く私にようやく満足してくれて、ぽん、と優しく頭を撫でて仕事に戻って行った。


無事に届けられて安堵する。さぁ、帰ろうと思った時だった。



「梓ちゃん」


「ーーー……、」


懐かしい声に私は身体を強ばらせた。ギギと油の足りないブリキの玩具のように顔を声のした方へと向けると。


そこには私にトラウマを植え付けた彼ーー柊くんが仄暗い瞳で私を射抜くように見つめていた。

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