第22話

「慧、何度も言うけど咲のこと信じてやって。咲は俺のことは好きじゃないから」



兄さんは苦笑混じりにそう言って、部屋から出て行った。


兄さんの言葉を信じたいけど。

咲の態度を見ていると、どうもそう思えない。


俺と兄さんに対する態度が違うから。

いつも何かあって助けを呼ぶのは、俺じゃなくて兄さんの方だし、今回もそうだった。


兄さんより俺に助けを呼んで欲しかった。


そうしたら、何がなんでも咲の為に動いたのに。


悔しさに唇を噛み締めると、ふとドアの開く音がしてまた兄さんが来たのかと思いながら振り返ると。



「咲……」


そこには罰が悪そうな顔をした咲が立っていた。


思わず固まっていると、咲が近寄ってくる。



「そんなに慧を悩ませてるだなんて思ってなくてごめんね。眠れないんでしょ……?」


「別に違う。」


「あのね、慧の気持ちは凄く嬉しいの。でも、慧はまだ高校生でしょ?」


「それが何?」



咲は言いづらそうに口ごもってから、そして意を決したように俯かせていた顔を上げた。



「き、気持ちが変わるかもしれない! 私はいとこだし、近い距離にいるから好きなのかもって勘違いしているのかなって思って……」


「は?」



何を言っているのか理解が追いつかず間抜けな声が出た。


勘違い……?



「そんなことない! 俺は何度も言うけど咲のことが好きだ。咲しか考えられないし、そう簡単に気持ちが変わるものじゃない。父さんと兄さんを見ていたら分かるだろ? 俺たちは一途だって」


「っ……だって……慧には色んな女の子が学校にいて、大学に進んでからも色んな女の子と出会うのよ……? そしたら気持ちが変わるかもーー」


「有り得ない。だって俺には咲しか要らないんだから」



咲の手を掴んで目を合わせる。

気持ちが伝わるようにそう訴えると、咲は揺らいでいた瞳を伏せ、そして抱き締めてきた。



胸元が濡れた感触がするけど、そんなの気にならない。

自分からも抱きしめ、腕の中の温もりに俺はようやく心が軽くなった気がした。




♢



【美羽side】



ちゅ、ちゅ、と顔中キスをされていることに気付き、目を覚ますと。

そこには満足そうに笑みを浮かべた見目麗しい先輩の顔が間近にあった。


「…………、」


「おはよう。美羽ちゃん。朝だよ」



うん。

朝なのは分かったから、顔から離れて欲しい。


朝からベタベタする顔にうんざりしてしまう。早く顔を洗いに行きたいというのに、先輩に覆いかぶさられて身動き取れない状態だ。

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