第20話
「美羽ちゃんは酷い」
先輩の部屋に入った途端、後ろから抱き締められて拗ねたようにそう呟かれた。
「美羽ちゃんのこと呼んでいいのは俺だけなのに」
「先輩も呼び捨てで構いませんよ?」
「だめ。美羽って呼んだら抑えきかなくなるから、敢えて美羽ちゃんって呼んでるの。それよりも、俺の事呼ぶ時、先輩は要らないって言ってるよね?」
「う……。」
確かに前から名前で呼ぶように言われているんだけど、つい先輩って付けてしまう。
なんかおこがましいような気がして、中々呼べないんだよね。
「まぁ、それはいづれで構わないんだけど、何で慧に美羽って呼ばせたの?」
先輩がぱっと抱き締めていた手を離して、私を振り向かせると向かい合わせになってからまた抱き締め直されてしまった。
顔を覗き込まれて、思わず顔の近さに身体を引きそうになるけれど先輩の腕が距離を取ることを許さないとばかりに力を込められてしまう。
じっと見つめるその視線の強さは、きちんと言うまで離してくれなさそうだ。
「慧くんとは同い年だし、まだ累先輩と籍入れたわけでもないのに"姉さん"と呼ばれるのは違和感があって……」
「でも、後二年もしたら籍入れるよ? 今から呼ばれてても構わないんじゃないかな」
「私が姉さんって呼ばれるのは嫌なんです。だって、同い年なのに変じゃないですか」
「んーそうかな? 慧だけに限らず美羽ちゃんのことは名前で呼んで欲しくないんだよね。美羽ちゃんのこと呼ぶのが俺だけならいいのに……」
累先輩だけしか私の名前呼べないようにしたら、私のこと他の人になんて呼ばせる気なんだろうか。
名前くらい別に構わないのでは?と思うけど、先輩には許せない何かがあるらしい。
どれだけ狭量が狭いと言うべきか。
「美羽ちゃんが高校卒業したら、閉じ込めてしまえば誰も美羽ちゃんのこと呼べないよね?」
「……閉じ込めらるのは勘弁して下さい……。人として普通の生活したいです……」
この人ほんとにやりかねないんだよね……。
何となく自分の未来が想像出来てしまうから、嫌だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます