第19話
うん、まぁそんな2人はさておき。
「さっきから何処触ってるんですか」
実はかなり気になっていた累先輩の怪しい手つき。胸に手当たってるし、先輩の利き手である右手なんて服の中入ってるから。
「ん? 本当は早く2人きりになってる所を咲に邪魔されたから。漸く触れられると思ってつい嬉しくて」
「それは理由になってないです……っ!」
今お腹に手当たった!
擽ったさに声が出そうになるけど、慌てて先輩の胸板に顔を埋めた。
危ない。
2人きりの時ならまだしも慧くん達がいる前で変な声が出そうになったよ。
「あら。失礼ね。いとこである私が心配じゃないの?」
「咲の心配は慧がしてくれるだろう? 1人じゃ怖いだろうと思って俺の家に連れてきてあげたんだから十分心配してるだろ」
「早くその子と一緒になりたいから、でしょ。累は相変わらず私に対して扱いが雑だわ」
はぁと嘆息をついて咲さんが不機嫌そうに眉根を寄せた。
「はは。じゃあ、慧。咲のことは任せた」
「もちろんだよ兄さん。早く美羽のこと連れて行って。」
「"美羽"?」
累先輩が私の肩を抱いて部屋に行こうとした時、慧くんが発した言葉にピクっと反応したのが分かった。
何故か低い声で私の名前を呼んだ先輩に、首を傾げる。
先輩の顔を見て直ぐに後悔した。
笑っているけど、これは怒ってる……!
「何で慧が美羽ちゃんのこと呼び捨てするのかなぁ? 今までは違かったよね? どういうことかな?」
「美羽がそう呼べって言うから」
「慧だめ。美羽ちゃんのこと名前で呼ばないで。怒るよ?」
名前呼びすてにするくらいで何でこんな怒るんだ。
それも弟である慧くんが言うくらい気にもならないと思うんだけど。
それよりも慧くんが困った顔をしているから、私は話を逸らすように先輩の腕に自ら絡んだ。
「先輩行きましょう! ね。早く2人きりになりたいです!」
「でも、美羽ちゃん……」
不満そうな表情をしているけれど、先輩のことを引っ張る。
また慧くんに"姉さん"なんて呼ばれるのは嫌だ。
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