第18話

「誰がストーカーだ。」


覗き込んでいた私の頬をペちと軽く叩いて、ふんと鼻を鳴らした。

だってどう考えたってストーカー気質なことやってると思うんだけど。



「もしかして慧くんの彼女?」


こんなに送るんだから、彼女だろう。

うわぁ、どんな子なんだろう。

好奇心からわくわくしながらそう聴くと、何故か嫌そうな顔をされた。


え、何その顔。



「彼女じゃない。」


ムスッとして携帯の画面を落として真っ暗にしてしまった。



「ええ……彼女じゃない子にそんなに送ってるの。それは……引かれるよ。いや、彼女になったって引くよ」



私が累先輩に引いてるように。

中にはこんなに連絡してくれて嬉しいと思う子がいるかもしれないけれど、私は嫌だ。



「美羽うるさいからもうあっち行けよ」


「慧くんが冷たい。だって累先輩居ないし退屈なんだもん。帰っていいかなぁ」


「あぁ帰れば? どうなったって知らないけど」


「慧くんってば他人事だからっててきとうだよね。累先輩と似てると思ったけど性格は似てない」



累先輩は優しく温厚だ……嫉妬深いのは置いておいて。

私に対してはデロデロに甘やかしてるんじゃないかというくらい。



「へぇ? 兄さんと似てないねぇ。いや、似てるよ。俺と兄さんは執着心が強いから。まぁ、父さん似になるけど」


「あぁ……うん。そこは……」



遺伝なんだろうなぁと思ってしまう。

累先輩のお父さんはお母様に対する愛情表現が凄かった。


初めて会った時なんか何故か物凄く喜ばれたっけ。



ーーガチャ


扉の開く音がして私と慧くんが振り返ると、そこにはムスッと不機嫌そうな顔をした累先輩がいた。

それよりも気になったのが累先輩の隣にいる女の人である。


艶のある長い黒髪に、口元にある黒子がなんとも色気のある美人である。


え、と固まっていると。



「咲!」


慧くんが驚いたように声を上げて、美人さんに近寄って行った。

累先輩は呆れた顔をしながら、私に近寄って抱き締めてきた。



「はぁ〜。美羽ちゃんに漸く触れられた。本当美羽ちゃんは癒しだよ」


「あの、あの人は?」


「あの子は咲で俺らのいとこ。んで、慧の好きな人なんだよ」


「!!」



まさかのいとこ!

そして慧くんの好きな人であることが判明して、さっきまで大量に連絡していた相手が彼女だと分かる。



「慧ってばあんなに送るの止めてって何回も言ってるのに。」


「だってそうでもしないと俺のこと相手してくれないでしょ? それよりも何で兄さんと一緒にいるの」


「あぁ、私の後ろに着いてくる男が居たから累に助けて貰ったの。ほんとストーカーってやんなっちゃう」



はぁ、とため息を付いてソファに腰かけようとした所で私に視線を向けてきた。

観察するように見てきたかと思うと、憐れむような目線に変わる。



「ご愁傷さま。」


「え?」


「累の餌食にされて。でも、アナタなら大丈夫そうね。何だかんだで累のこと好きそうね。累は嫉妬深いし、執着心が凄いだろうけど頑張ってね」



抱き締められたままでいる私に、彼女はニッコリと微笑んで拍手をしてきた。


何だかんだでねぇ。

チラッと累先輩を見ると、嬉しそうに頬を擦り寄せてきた。


……可愛いと思ってしまう辺り重症かもしれない。


うん。

私もきちんと言葉にしていないだけで、累先輩のことが好きだからきっと彼女も分かったのだろう。



「咲ストーカーって何? それで何で俺じゃなくて兄さんを呼ぶの?」


「累だったら冷静に対応してくれるけど、慧だったら暴力事件になっちゃいそうじゃない。だからよ」


「っ、俺だって冷静に対応出来る。今度から兄さんじゃなくて俺を呼んでよ」


「あ〜はいはい。その時はお願いするわ」



うわぁ、慧くんがあしらわれている。

めんどくさそうに言われたというのに、慧くんは嬉しそうだ。


よっぽど好きなんだろうなぁ。

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