第12話

先輩に手を引かれるがまま、教室を出ようとした時。

背中に痛い程の視線を感じて、恐る恐る振り返るとやはりというか。


矢田くんが私を見つめていた。


そうしてもう1人視界に入ったのはニヤニヤと笑みを浮かべた佳奈である。

どうせろくなこと考えていないのだろう。


口パクでバイバイと言ってきたので、私は手を振って返すと矢田くんがギロっと睨んできた。


だから、怖!


う〜ん。

何であそこまで私嫌われてるんだろう。


無意識に矢田くんに対して何かしてしまったのだろうか。


いや、そんなハズないな。

だって、累先輩以外の男子と喋ることなんて無いから。

というか、喋ったら何故か累先輩に全て私の情報は筒抜けなので怒られるから。


喋れない。


授業とかは仕方ないとしても、プライベートでは喋ってはいけないらしい。

嫉妬深いのも考えものだと思う……。



まぁ、つまり。

私は矢田くんに対して何もしていないのは事実である。


なのに、何故か矢田くんは睨む程何か私に対して恨みか何かあるのか。

モヤモヤするのは嫌だから、直接聞きたいけどなぁ。


チラリと私の手を引く累先輩を見ると、私の視線に気付いた先輩がうん?と言ってきた。



「どうかした? あ、俺に見蕩れてくれたのかな。ふふ、嬉しいなぁ」


「違う。違います。ここ、まだ学校なんで顔を近付けるの禁止ですからね」


「他の奴らなんてどうでもいいよ。キスしたいのになぁ」


「先輩と違って私には常識というものがありますからね」



他の奴らがどうでもいい、ねぇ。

累先輩がどうでも良くてもほかの人たちはそうはいかない。


何せこんな見目麗しい人がいたら注目するに決まっているのだから。

無関係ではいられないはずだ。


ジロジロと感じる様々な感情の視線に、息が詰まりそうになる。



「あの、明日クラスメイトの人と喋ってもいいですか?」


許可を取ればいいんじゃない?と思った私は早速先輩にそう尋ねてみた。

するとピタッと足の動きを止めた先輩に、私もつられるように動きを止める。

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