第11話

「美羽ちゃん」



あの後も矢田くんから悪意のある視線をもらいつつ、なんとか気にせずに授業が終わり、帰り支度をしていると教室がざわめいた。


何事かと思うが、疲れきった私にはどうでもいいことで。


いかに早く帰れるかが重要だったのだけれども。

嫌という程聞き慣れてしまった甘い低音の声に、引き攣りながら顔を上げた。


目の前に爽やかな笑みを浮かべた、目麗しい累先輩が立っている。


きゃきゃと騒ぐ女子の声と共に、私に対する陰口が聞こえてきてうんざりしそうになる。



というか学年違うのに、何で我が物顔で入ってきてあまつさえ私の目の前にいるのかなぁ。

私が虐めにあったらどうしてくれるつもりだ。



「教室来ちゃダメですって」


「美羽ちゃんのこと迎えに来たかったから。怒ってる?」


「う……。怒ってませんから、皆の前でそんな顔をしないで下さい」



そんな悲しそうな顔をしたら……、ほらっ!

私たちのことを伺っていた生徒たちが私の事を非難する目を向けているじゃない。


『先輩悲しませるとか酷いな』とか聞こえてきたしね。



「ほんとう? じゃあ、一緒に帰ろう。ね?」


途端に嬉しそうな笑みに変え、私が持つよりも早く鞄を持ってしまった。

うん、だから皆の前でそんなことしないで。


まるで先輩のことをパシリに使ってるって思われそうだから。

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