第10話

「お帰り美羽」


何とか次の授業に間に合って慌てて机の上に教科書を出すと、後ろから抱き締められた。

ふわりと香ったシャボンの匂いと慣れた温もりに友人だと直ぐに気づく。



「へぇ〜? みえちゃった」


語尾にハートマークでも付いてるのかといわんばかりに楽しそうな声に顔が引き攣る。

うん、絶対わざと抱き締めてきたな。


心無しか首が締まってて苦しいし。


「うっ、く、苦し、」


離してとらいたくて前に回されている腕を叩く。

だけど、耳に唇を寄せて囁くように言ってきた。



「美羽ちゃん〜まさかお昼休みで美味しく頂かれちゃった? ねぇ答えてごらん?」


「ばっ! 何を言ってるの!? というか離れてっ」


「いやよ。美羽ってば本当可愛い……」


「ちょ、佳奈!? 近っ!!」



うふふと微笑みながら、顔を近付けてきた。

ギョッとして思わず顔を引くと、つん、と恐らくキスマークが付いているであろう場所をつついた。



「いいなぁ〜。私も男だったら、美羽のこと苛めるのにぃ」


「ちょ!? アナタ何を行ってるの。というか離れて」



授業始まるっていうのに全く離れようとしない佳奈にイラつき、近付けてくる額を叩いた。

ペチッ、と思ったよりもいい音が響きひっそりと笑う。



「ひどーい! 美羽に傷ものにされたから、責任もって私に先輩とのラブラブ生活を暴露して」


「いや、意味が分からないから。ほら、ふざけてないで早く席に戻りなさい」



全くこの友人はふざけ過ぎだ。どっと疲れて、ため息をつくとふと気付く視線。


何事かと斜め後ろをチラッと見ると、1年の中で1番イケメンだと持て囃されている矢田くんと視線が合う。


そうか、この人同じクラスだったなぁと思ってるとギロっと睨まれてしまった。



「ん!?」


え、怖。

なんで私睨まれたんだろう。


全く関わりがない人に睨まれるだなんて思いもしなかったから、びっくりしてしまう。

固まっていると、わざとらしく目を逸らされてしまった。


私は矢田くんにどうやら嫌われているらしい。


なんてことだ。

矢田くんに嫌われているということは、矢田くんは女子に人気者だ。

つまり、矢田くんが一言私の事が嫌いだと発すれば、女子は私の事を目の敵にしそうだ。


え。


高校生になったばかりだというのに虐めに合うの!?


そんなの絶対嫌なんですが!!

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