第9話

さり気なく太ももを撫で回してきてるので、堪らずその手の甲を叩く。

全く学校なのに、見境なしか。


皆の前では完璧なんだから、いつでも優等生で品行方正の先輩でいてもらいたい。



「美羽ちゃんもうちょっといようよ」


そろそろ昼休みも終わるので、立ち上がろうとするけれど拗ねたように先輩がごねた。



「学校が終わったらほぼ大体何時でも一緒にいるじゃないですか」


「やだ。本当は1日中ずっと一緒にいたい」


「学校がある以上無理ですね」


「じゃあ、美羽ちゃん退学しよ?」



何でそうなる。ガクッと項垂れそうになった。

高校中退で、働き口が見つかるかといったら難しいだろうし、私を路頭に迷わせる気か。



「退学しません。絶対に高校は卒業しますから」


「俺が養うのに……。でも、高校卒業したら美羽ちゃんの全ては俺のものだもんね。うん、後2年か……」


「……2年……しかないのか……」



累先輩の呟きに愕然とする。

え、私の自由(と言えるのか今も微妙なところ)は後2年しかないのか……。

恐らく、確実に高校卒業したら籍を入れられるだろう。


私の16歳の誕生日には婚約指輪を渡すとか本気の顔で言ってくるくらいだし。


先のことを考えると沈みそうになるので、その時に考えればいいと切り替える。



「高校卒業と同時に籍入れて、同棲だね。美羽ちゃんは家で俺のことを迎えてくれるだけでいいからね。何もしなくて大丈夫だよ」



興奮しながら瞳を輝かせて将来のことを話し出した先輩に引く。

何もしなくて大丈夫って何処が大丈夫なんだろう。

とても明るい未来が想像出来なくて、笑って誤魔化すことにした。



「授業始まってしまうので、離して下さい」


もう時間もギリギリだ。

遅刻して教室の皆から一斉に見られでもしたら、恥ずかしくていたたまれない気持ちになるし、先生に注意されるのも嫌だ。


ぐぐっと先輩の腕から逃れようと力を込めているというのに、逆に力を入れて私を囲うとはどういうことだ。



「離したくない……美羽ちゃんとずっとこうしてたいよ」


「んっ!」



首筋に顔を埋めたかと思えば、キツくその箇所を吸われ痛みに声をもらす。



「んー綺麗に付いたね」


「……はっ! そこ隠れてますか!?」


「美羽ちゃんに近付いて上から見下ろさない限り、見えることは無いよ」



ニコリと、朗らかな笑みを浮かべ漸く私の身体を解放した。

恐らくキスマークを付けたのだろうけど、友人が見てしまったらどうしよう。


あの子、人のことからかうのが趣味といっていいほど悪どいから。

毎回、先輩の所にやむを得ず行くとニヤニヤしながらからかってくる。

そこに更にキスマークなんて見てしまったら……想像しただけでどっと疲れそうだ。



「……もう見えそうな所に付けるの禁止です」


「面白い冗談だね」


「…………」


本当、この人をもうどうにかして欲しい。

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