第8話

「優香」



全ての講義を終え、さっき届いた通知に急いで大学を出ると。

嫌でも聞き慣れた声が私の名前を呼んだ。


周りの女の子たちがチラチラと大翔のことを見ているけど、大翔は全く気にしていないようだ。



「遅いよ」


「……これでも急いで来た方なんだけど」



息が上がってるのに、気付いていないの?

突然だったから、急いだのに。

大翔に思わずムッとすると、ふっと笑わられた。


「まぁ、いいけどね。さ、帰ろ」



手を差し伸べられて、ぼんやりと見つめると、強引に手を握られてしまう。


離さない、とでもいうかのように強く握りしめられ、痛みに微かに眉を寄せる。


痛い。なんて言ったところで離してくれるわけがないことを分かりきってるので、小さくため息をついた。




「大翔、今日はまだじゃ無かった?」



あと一限残っているから、今日は迎えに来るまで待っててって今朝言ってたはずなのに。

訝しんで問う。



「次の講義、先生が来れなくなったから急遽休講になったんだ」


「そうなんだ……」



それならもっと早くに連絡欲しかった。

そう言いたくなるけどぐっと口を噤む。


1限分とはいえ、大翔と離れていられる時間だったのになんか損した気分だ。


それに、何処にも寄らず真っ直ぐ家に帰るようだよね……。たまには息抜きしたいんだけどな。



大翔は私が大学に通う以外で外に出ることをあまりよく思っていない。

基本一人で外に行くと、機嫌が悪くなる。


だから大学が違くて、講義の時間がずれていようとも必ず朝は一緒に出るし、帰りも大翔が迎えにきて絶対に一緒に帰るようで。


たまには一人になりたいと、前に言ったことがあったけど怒られただけだった。



大翔の機嫌をあまり損ね、下手をすると大学を辞めさせられてしまうかもしれない。


私が大学に行きたいといったときもいい顔をしなかったし、家にいてほしいと言われたくらいだ。


家にずっといるだけの生活なんて耐えられない。


そんなことは絶対に嫌だったから、なんとか懇願して行かせてもらっている。


自分のことなのに、自分の進路を決められないだなんて。



「優香、駄目だよ」


「わ、分かってるよ……」


お店を見ていたことに気付いたのか大翔に制され、慌てて頷いた。

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