第23話

あぁ、ダメだ。

尊くんはもの凄く怒っている。


暗く澱んた瞳が射抜くように私を見つめている。


早く、彼の望む回答をしないと。


「っ、う、嬉しい……です。尊くんの言う通り、今日は休ませてもらうね」


心に思ってもいないことを言うのは苦しい。

ぎこちない笑みを浮かべて言ったが、尊くんには嘘をついているだなんてバレバレだろう。


「そう? 分かってくれたようで良かった。駄々をこねるようだったらどうしようかなって思ってたんだ」


「っ、」


どうするつもりだったんだろう。

きっと、私にとっては苦痛でしかないことをされるに違いなかっただろう。


尊くんは口元に緩く笑みを浮かべで、私の頬を撫でた。



「絢子、朝から誘ってくれるのは嬉しいけど夜に、ね」


「あ……っ!!」


そうだった。

何も身に付けていないから、未だに裸だった。


尊くんにもう数えきれない程見られているだろうけど恥ずかしいものだ。


慌ててシーツを手繰り寄せて、胸元を隠すと尊くんが喉元を鳴らして笑った。



「僕は学校にいくよ。家にいる者が用があれば来るだろうし、今日はゆっくり休んでいるといいよ。包帯も僕が帰ってきたら交換しよう」



大した傷でもないのに、昨夜尊くんが包帯を巻いてくれた。

大袈裟な対応に、大丈夫だと何度も言ったのだけれど私の身体に傷が残るのか嫌だと言ってやってくれたのだ。


「うん……。分かった。行ってらっしゃい」


「行ってきます」


「っ、んぅ」


屈んだかと思うと強めにキスをされ声が漏れた。


尊くんがご機嫌そうに笑って部屋を出て行った瞬間、静かさが部屋を包む。



「1人……なんだ……。」


学校を休め、と言われた時は嫌だと思ってしまったけど、尊くんが帰ってくるまで1人で居られるんだと思ったら安堵してしまった。

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