第21話
言い淀む私に尊くんがため息をついた。
「絢子は僕に心配かけて楽しい?」
そんなつもりは全くなかった。
困惑する私に、尊くんが首を横に振って私のことを抱き起こす。
「やっぱり傷つけられたんだね」
「え、あ……これは、その」
尊くんが悲痛な表情をして私の手首を見つめる。
矢口さんから付けられた爪痕は、少し赤くなっているだけで血は出ていない。
2、3日放置していれば消えるだろう。
「僕の絢子に傷つけるなんて到底許せるものじゃない。彼女には制裁をしなきゃ」
「そんな事止めて欲しい……。矢口さんは尊くんのことが好きだから、」
きっと矢口さんが私のことを許せない、と思うのは何も恋心からじゃない筈。
多分、尊くんと付き合っているのに私が尊くんのことを好きじゃないことが許せないと思う部分もあるのだろう。
「僕のことを好きだからって絢子を傷つけていい理由にならない。それに彼女にはきちんと断ったよ。絢子しか僕には必要無いからね」
「……っ、」
抱き締めながらそう言う尊くんに、また気持ちが沈んでいく。
何で私なんだろう……。
矢口さんとならお似合いなのに。
何で……そこまでして私に固執するの。
私と尊くんには接点がなかった筈なのに。
何て言えばいいのか分からず、されるがままになっているしか出来ない。
尊くんのことを好きになれれば、楽になれるのかな……。
そんなことは出来やしないのに、ふと思ってしまった自分に絶望する。
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