第20話

もしかしてさきほどの会話を聴いていた……?


尊くんに話されたら、私もだけど矢口さんがどんな目に合うのか。

想像しただけでも恐ろしい事態になりそうな予感に、慌てて彼に言う。



「あ、あの……。尊くんには……言わないで欲しい」


「なんの事? それよりも急いだ方がいいんじゃないかな」


「…………え、そう、だね」



絶対に聴いていた筈なのに。

しらばっくれる彼に、内心重いため息をつく。

私がお願いしたところで、やっぱり無駄なのだろう。


尊くんに陶酔している彼に、私が何を言った所できいてくれるはずもないのだから。


授業に遅れてしまっては、尊くんが教室に乗り込んできてしまうかもしれない。

その方が精神的苦痛になるので、授業に間に合わせる為にも早歩きで教室に向かった。


授業開始のチャイムが鳴り響く前に教室に戻れてホッと安堵すると、教室にいる何人かの生徒から視線を向けられた。


「…………」


先程の彼とはまた別に全員がそうじゃないだろうけど、多分、私の監視役がいるんだと思う。


居心地の悪さに、堪らずため息を吐いた。





* * *



「絢子」


「痛、痛い、っ……」



今日全ての授業が終わり、放課後になった途端。

教室に入ってきた尊くんが怒ったように私の腕を引っ張って、引き摺るように外へと連れ出されてしまった。


痛みに思わず声をもらすけど、尊くんは力を緩める素振りをみせない。


そして外に停められていた黒塗りの車に乗せると、車の座席に身体を押し倒された。



「何で僕に言わないの。」


「っ、」



やっぱり尊くんに話がいってしまったらしい。

授業の合間の休憩時間や、お昼時間では普段と変わらずの様子だったのに。


思わず目を逸らすと、顎を掴まれて顔を固定されてしまう。


「トイレで何を言われたの。矢口って女から何された? 僕の絢子に傷つけるなんて許せないのに」


「た、尊くん、ここ車の中だから、」


「そんなの関係ないよ。」


「んんッ!」



唇を重ねられたかと思うと、直ぐに首に顔を埋められ、吸い付いてくる尊くんに慌てて止めるように肩に手を置いて距離を離そうとするけど力で適うはずもない。



「んっ……」



キツく吸われ、声をもらすとスカートの中に手を入れられてしまう。


太ももを撫でられ、ビクッと肩を跳ねらせる。


運転手さんだっているのに……こんな所で嫌でも感じている声を出してしまったら恥ずかしい。

声を出さないように尊くんに必死にしがみつくと、耳元でクスッと小さく笑う声が聴こえた。



「大丈夫。絢子の可愛い声は僕だけにしか聴かせない。これ以上はしないよ。」


「っ……」


「それより何で言わなかったの。彼に聞くまで知らなかったよ」


「それは……わ、私の問題だから」


言われるのは仕方ないものだと諦めているし、わざわざ尊くんに言ってどうこうしてもらうような問題でも無いと思うからで。

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