第18話

【絢子side】



「絢子は僕に不満がある、ってことだね」


低くなった声音にビクッとする。


自分でも、思い切った行動をしてしまったことはわかっている。

だけど、どうしても尊くんから逃げたかった。


自由のない日常。


向けられる様々な視線。

苦痛な日々。耐えられなくなるのは直ぐだった。


好きな人なら、ちょっとした束縛は嬉しく思うのかもしれないけれど私は尊くんに恋愛感情を抱いていない。


むしろ、恐怖しか感じていない相手に強引に身体を暴かれ恋人にされ、束縛されるのは苦痛だった。



日々やつれていく私に声を掛けてくれたのは大学に行っている年上の幼なじみだった。


話を聞いてくれて、一緒に逃げるのを提案してくれて。とりあえずの避難先として、彼の家に行こうとした矢先のことだった。


いきなり現れた尊くんに阻止されてしまった。



それも彼を傷つけて。


そうして無理やり戻された尊くんの家は、相変わらず私に窮屈さを感じさせた。



「不満だなんて、そんなこと……」


「絢子は嘘つきだね。不満が無ければ僕から逃げようだなんてする筈がない。」


「っ、」


堪らず言葉に詰まる。

不満というよりは"怖い"という方が正しい。


尊くんにこれから一生束縛される人生に悲観してしまったから、だから少しだけでいい。


一瞬でも良かったから"自由"が欲しかった。

ただそれだけだった。




「尊くん……」


「絢子は酷いよね。絢子が居なくなったら僕が傷付いてどうにかなるだなんて思いもしなかったんだ。」



頬を撫でられ、暗く淀んだ瞳を向けられる。

まるで光の見えない闇に落とされるような感覚にゾワッと肌が粟だった。



「囚われているのは、絢子じゃない。僕だ。絢子に出会った時から。だから、絢子には絶対に責任を取ってもらわなきゃいけないんだよ」


「っ!」


「絢子は絶対誰にも渡さない」



まるで鎖が私のことを縛り付けるような錯覚に、ひゅっと空気を吸う。


後悔したってもう遅い。







「絢子今日は眠れるだなんて思わないでね」



ーーーーほんの僅かでもいいからだなんて……自由なんて望んではいけなかった。


だってその結果が、こんなことだなんてあんまりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る