第16話
絢子の眠っている寝室に向かうと案の定というか、絢子はまだ眠っていた。
ベッドの脇にある椅子に腰掛けて、足を組みながら絢子を見下ろす。
その表情は険しい。
寝心地が悪い、というわけではないだろう。
「無茶させたから、か?」
今日の絢子は反抗的で、僕が触ろうとする度に逃げようとしたから怒りにまかせていつもは優しく抱いてあげるところを乱暴にしてしまったことは自覚している。
シーツを被せて身体を隠してはいるが、何も服を着せていないから絢子はまだ裸体だ。
うつ伏せで寝ている背中には僕が噛み付いた痕や吸い付いた鬱血痕がある。
背中だけでこれだけなのだから、自分でも笑ってしまうほど独占欲が強いなと思う。
「……父さんみたいにはなるつもりはなかったんだけどね」
父さんが母さんに対して向けるドロリとした粘着性の視線に、いつも怯えていた母さんをふと思い出す。
「……、」
母さんは、僕たちを愛そうと努力していたけれど父さんが許さなかった。
父さんにとったら僕たちですら嫉妬の対象の入るようで、幼い頃は母さんに甘えようとすると鋭い目を向けられたものだった。
高校に上がった時に、父さんからは『お前たちを産ませたのは百合を縛り付ける為の枷だ。後跡継ぎが出来れば良かった』と笑いながら言われたものだ。
だから、僕は絶対そんな父さんみたいになりたいとは思わなかった筈だったんだけどね。
「ん……っ」
「あ。絢子、起きた?」
ぼうと絢子を見つめていると、ふと身じろいだ。
どうやら覚醒したらしい。
目を擦りながら、身体を起こした絢子からシーツが落ちて上半身が顕になる。
綺麗な肌が見え、ふっと口を緩ませてしまう。
「……あれ……?」
ぱちぱちと目を瞬かせた絢子が不思議そうに首を傾げる。
どうやら寝ぼけてるみたいだ。
僕の姿を見つめ、徐々に怯えた表情に変わっていった。
「あっ……! や、やだ」
「はは。今更隠さなくたっても、絢子の裸はもう何回も見てるから大丈夫だよ」
慌てて身体を隠そうとする絢子に思わず笑ってしまう。
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