囚われているのは
第15話
「たった一人に縛られる人生は幸せな事だと思う?」
向かい合って退屈そうに頬杖をついて窓の外を見ながら座っていた弟の大翔が僕の思わず呟いた言葉にふと顔を向けてきた。
僕とよく似た顔立ちだけれど、少し生意気な弟が実はというと…うん。可愛い。
今は卒業して高校に進んでるけれど、かつては僕も大翔が着ている制服を着ていた。
同じ中学に進んでくれたことが嬉しかった。
白い制服に身を包んだ大翔はその制服がまるでピッタリ誂えたように似合っていた。
「……それって義姉さんのこと言ってるの?」
ため息混じりに、呆れたように言葉を返してきた大翔に小さく笑った。
「ふふ。気が早いよ大翔。義姉さんだなんて。僕はまだ結婚出来る歳じゃないよ?」
「何言ってんだか。結婚できるようになったら、兄貴から逃げられないように縛り付けるつもりのくせに」
「うん? それはそうだね。」
流石は僕の弟だ。
これから先の未来がお見通しだ。
「絢子の全ては僕のものだからね。例え絢子が嫌がろうと絶対に僕だけのものにするつもりだよ」
「じゃあ、なんでそんなことを?」
大翔が訳が分からないという顔をして、僕を見つめてくる。
思わず笑ってしまった。
何であんなことを言ったのか自分でも分からなかったから。
でも、多分。
絢子が最近見せる表情が原因かもしれない。
「何で絢子は苦しそうな顔をするのかな……僕がこんなにも愛してるのに全くその理由が分からないんだ」
こんなこと大翔に言ったって、困るだろうに。
大翔はまだ中学生になったばかりだ。誰かを絶対捕らえたいと思うような想いを、こんな醜い程の執着心を抱いたことはまだ無いはずだ。
ぽつりと漏らした弱音に、大翔が鼻で笑った。
「別に義姉さんがどう思っていようと構わないだろ。手に入れられれば泣き喚こうが関係ない。だって、運命の人を手に入れて、愛するのが当然だから。」
「……ふふ、はは。そっか。もしかして大翔、好きな子が出来たのかな?」
当然だろ、と言わんばかりの大翔の顔に笑みが零れる。
驚いたな。まさか大翔も”僕と同じ”考えを持っているとは。
「好きだけじゃ足りないけど……。出会った瞬間分かった。手に入れなきゃいけないって」
「そう、そうだね。僕もだよ。絢子を見た瞬間、絶対手に入れなきゃって思ったよ」
流石は兄弟といったところか。
僕たちは似ている。たった一人に心の底から愛情を向けることを。
それだけじゃなくて、絶対何であろうと手に入れることを。
いや、これは遺伝なんだろう。
父もそうだったのだから。婚約者のいた母を無理やり奪い取り、自分の妻にした。
母は僕たちを無理やり産まされ、それでも自分の腹を痛めた子だからと何とか愛そうと努力しているみたいだけど……分かってしまう。
父に、そして僕たちにも憎悪と恐怖の感情があることを。
そして気の毒なことに父に愛される度に、病んでいってしまった。
今では母の顔を見る機会がどっと減ってしまった。
たまには顔を見たいのだが、父が大きくなった僕たちに会わせたくないようで、なかなか許可がおりない。
嫉妬深いのも考えものだと思う。
僕も父のようになってしまうのだろうか。
「大翔の相手を見るのが楽しみだね」
「まだ駄目だ。完全に優香を手に入れるまでは」
「へぇ。優香ちゃんって言うのか」
「……この間漸く俺のものにしたんだ」
「へぇ? そうなのか。おめでとう」
珍しくも嬉しそうに笑う大翔に僕も嬉しくなる。
まだ中学に上がったばかりだというのに、大翔がそう言うってことはそういうことなのだろう。
優香ちゃんにとっては、恐ろしさしかなかっただろうけれども。僕にとったら大翔が喜んでいる方が大事だからね。
「ありがとう大翔。大翔に話したらなんか吹っ切れたよ」
「そう? 所で義姉さんは何処にいるの?」
「もちろん、僕の部屋にいるけど寝てるかな? ……結構無理させちゃったみたいだから」
「あっそ。あ、俺もそろそろ優香の所行かないと。じゃあ」
携帯を見て大翔がなにやら不敵な笑みを浮かべた。
その表情は父親にそっくりだ。どちらかというと大翔の方が父親似だと思う。
紅茶を一口飲んで、時間を見るとここに居てから結構時間が経っていたみたいだ。
絢子が起きているかもしれない。1人にすると何かしら考えて時々、逃げようとか馬鹿げたことをし出すから様子を見に行ったほうが良さそうだ。
丁度大翔も、行くみたいだしね。
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