第2話
迎えの車に一緒に乗せられた。
広い車内は静かで、落ち着かない。
広いのに、何故か四条くんは私の腰に手を回して身体を密着させるように後部座席に座らせた。
視線を感じて、恐る恐る顔を上げると。やはり、というか私を射抜くように見つめていた。
「あ、あの手を」
「うん? こうが良かった?」
「えっ、違っ……」
腰から手を離してもらたかっただけだ。
それなのに、腰から手は離れたけれど何故か指を絡められてしまい所謂恋人繋ぎの形をされてしまった。
大きくて温かい手の温もりにビクッと肩を震わせる。
「ふふ。やっぱり手が小さいね。可愛い。ずっと絢子に触れたいって思ってたんだよ」
そう言って、繋いでる手を四条くんの口許に上げられて、私の薬指に口付けた。
「四条くんっ!?」
「顔真っ赤だ。可愛い……」
「え、んぅ!?」
グイッと引き寄せられたかと思うと、四条くんの整った顔がすぐ側まで近付いて。
次の瞬間には、唇が重ねられた。
目を見開く視界に、四条くんの切れ長の瞳とかち合う。睫毛が長い……と現実逃避をした時には、更に驚く羽目にあった。
「っ、んんんぅ、んっ、」
瞳を思わず閉じる。
ぐっと唇をこじ開けるように入ってきた四条くんの舌が、口内を犯していく。
初めてのことにどうしたらいいか分からずろくな抵抗も出来ずに、固まってしまっていると。
車内の中だというのに、広い座席に押し倒されてしまった。
「やっ、止めてっ!」
運転手さんもいるというのにお構い無しの四条くんに慌てて、止めてもらうように制止するけれど、四条くんは必死な私を見て楽しんでるだけで。
「別に気にしなくても構わないのに。ねぇ、柊」
「はい。三ノ宮様、後部座席が見えないようにするカーテンもありますので私のことはお気になさらずとも大丈夫ですよ」
運転手さんに名前を呼ばれ、驚く。どうして私の名前を……。
それよりも、いくらカーテンで遮った所でこうやって会話が出来るということは声は筒抜けだということだ。
「私が気にします……」
「そう。まぁ、僕も君の声は他の奴に聞かせたくないからとりあえずはいいけど。あ、そうそう!」
「あっ!?」
どうやら最初からからかっていたみたいだ。
ホッと安堵の息を吐くと、今度は急に身体を起された。
勢いよく引き寄せられた為、顔を四条くんの胸板にぶつけてしまう。
鼻に痛みが走り、涙目で痛いと訴えるけれど笑みを返されただけだった。
酷い……。
「今日から僕と一緒に住んでもらうから。あぁ、もちろん。君の両親も承諾済みだよ。まだ僕は16だからね、結婚は出来ないんだけど2年後には結婚するからよろしくね」
「え……?」
一体何を言っているの?
全く内容を理解出来ずに四条くんを凝視してしまう。
一緒に住んでもらう?
結婚……?
想像も出来ない言葉の数々に、冗談だと思いたい。
四条くんとこうやって話すのも今日が初めてなのだ。それなのに、何を言って……。
「待ち遠しいな。本当は今すぐにでも学校を辞めてもらいたいんだけど、後2年の辛抱だもんね。結婚したら専業主婦になって、僕の帰りを待っててもらいたいんだ」
「ま、待って! じょ、冗談ですよね……?」
「冗談? 冗談なわけないよ。もう僕の両親も承諾してくれたし、君なら大歓迎だと言ってくれたもの。もう君は僕のものだよ」
頭が真っ白になる。
有り得ない状況に頭を抱えたくなった。
四条くんはおかしい……。
一旦頭を冷やして冷静になりたい。
この場から逃げたくても、ドアを開けて逃げようとした所で大怪我をするだけだ。
「尊様着きました」
「早かったね。さ、今日からここが君の家になる場所だ。歓迎するよ」
走っていたと思っていた黒塗りの車が停車し、運転手さんが振り返って言った。
もう着いたの……?
手を引かれ、たたらを踏みながら車から降ろされると。
私の家とは比べられない程の大豪邸が目の前にあった。
呆然とする私にクスリ、と笑うとそのまま引っ張られてしまう。
玄関には大勢の執事やメイドがいて一斉に頭を下げて、四条くんをお出迎えた。
「皆、今日から僕の婚約者の絢子が一緒に住むことになったから。よろしく頼むね」
"婚約者"
私の意思なんて全く無い、勝手に決められた関係に恐怖を覚える。
「絢子、ようこそ」
ーー逃げ出したい。
ただ単純にそう思った。
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