レーゾンデートル
るい
カゴの中へ
第1話
「ねぇ、僕のものになってくれない?」
教科書を鞄に入れていると、急に手を取られて言われた内容に呆気に取られた。
悲鳴をあげなかったことが幸いだった。
目の前でにこやかに微笑んでいるのは、学年中……いや、学園中で有名な四条尊くんだ。
四条家といえば有名な資産家で。
いくつもの事業を兼ね備えている。
それだけでなく、四条くんは物凄く整った顔立ちをしていて。学力も常にトップ、運動神経も抜群で更に性格も温厚で。
女子からだけでなく男子からも一目置かれる存在だ。
彼に想いを寄せている女子は沢山いる。
彼に近寄った子たちが悲惨なイジメにあったりしているのを見たことがある。
自分から危険なものは避ける。
そう思っていた私は、徹底的に彼に近寄ろうとしなかった。
幸いにもクラスは違うし、クラス共同でやる授業だって彼と同じ班になることもなかった。
全く関わりがない彼がどうして私の目の前にいて、手を掴んでくるのだろうか。
それに、何故か先程までいたハズなのに教室には私と四条くん以外誰もいなかった。
放課後の教室で静まり返る。
「え、と……誰かと間違えていませんか?」
きっとそうに違いない。
彼が用があるのは私なんかじゃない。
「へぇ。そうやってはぐらかすんだ? いつも君のこと見てたのに、つれないね」
「っ! ひっ、」
ガタン、と音がして手を引っ張られたかと思えば、私はいつの間にか押し倒されていた。
背中に当たる硬くて冷たい床の感触に目を見開く。
四条くんは口許に緩やかな笑みを浮かべながら、私に覆いかぶさってきた。
私たち以外いないとはいえ、教室で押し倒されてるという状況に動揺する。
慌てて立ち上がろうとしたけれど、そのことを見越した四条くんに更に体重をかけれれてしまい、起き上がることは困難だった。
「ど、どうしてこんなことするのですか……?」
震えそうになる声を必死に抑えながら、聞くと。四条くんは笑みを深くした。
「つれない君に分からせてあげようと思ってね。僕は君が欲しい」
「じょ、冗談ですよね……?」
「冗談? 冗談でこんなことはしないよ。ふふ、ねぇここで犯されるか、それとも僕と一緒に帰って家で優しくされるかどっちがいいかな」
言っていることを理解したくない。
そんなの……どっちにしても四条くんに何かをされるのは決定しているみたいだ。
「拒否権は……」
「ああ。そう、君の両親にはもう挨拶済みなんだ。どうやら、僕の家の事業の中に君の両親の企業があったみたいでね。大層喜んでいたよ」
「っ! そんな」
一体いつの間に。
そういえば朝、両親の機嫌がやけに良かったことを思い出す。
"今日は泊まってきてもいいわよ"
お母さんが不思議なことを言っていたな……。
もしかしたら、このことを予想してのことだったのかな。
「悪いようにはしないし、僕は絢子、君をとても大切にするよ?」
「っ……」
「さぁ、どうする?」
まるで私の答えが分かっているような四条くんの笑みに、涙が溢れる。
今まで友人たちが騒いでいた四条くんに対して、私が恐怖を抱いていた理由がたった今分かった。
この目だ。
ーーまるで獲物を狙うかのような、そして飲み込もうとしているような暗い瞳で私を見つめるこの目に恐れを抱いていたんだ。
だから、避けてきた。
捕まったら、私は確実に狂わされる。
「私は……」
震える声で返答をする。ーーこの場で犯されるだなんて、もちろん嫌に決まってる。
もう逃げ道はない。それならば、酷い扱いをされるくらいなら優しくされた方がマシだ。
その答えを聞いて、四条くんはとても愉しそうに口元を綻ばせたのだった。
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