「第六話」仏を目指す破戒僧
「着いたっすよ〜!」
「ここって……遊園地?」
舞香は園内の観覧車を見上げ、次に得意げな顔をしている針川の顔を見た。
「まさか、ここで戦えっていうの!?」
「そうっすよ?」
「そうっすよって、ここには一般のお客さんがいっぱい……あれ?」
そういえば、入り口付近なのに全然人の気配を感じない。いいやそれどころか、園内に人の気配は無かった。休園日だからだろうか?
「あー、なるほど。舞香サン、ここも指定区域っすよ」
「えっ?」
「知らなかったんすか? やだなぁ、指定区域の把握ぐらいプレイヤーなんだからちゃんとしなきゃダメっすよ〜?」
針川はケラケラと笑いながら園内へと歩いていく。舞香はそんな彼の後を不満げにゆったりと追った。
園内は本当に静かだった。アトラクションも一切動いておらず、賑やかなはずの場所にほとんど誰もいないというこの状況と相まって、舞香は感じたことのない不気味ささえ感じていた。
「あれ、おっかしいっすね……前に来た時はもっとドンパチやってたのに誰もいねぇや」
「……」
そう、ほとんど誰もいない。──物陰に潜んでいる一人を除けば。
「伏せて」
「えっ?」
「伏せてっ!!!!」
「──ちょ!?」
舞香は針川の後頭部を掴み、地面にはたき落とす。自らも姿勢を低くした次の瞬間、先程自分が立っていた辺りが物凄く熱くなった。
伏せながらも姿勢を整えながら、舞香はそれが揺らめく炎であることを目視で確認していた。──その向こう側にいる、不意打ちの正体も。
「へぇ、よく避けたな!」
楽しそうに、心底楽しそうな千鳥足だった。
逆立った金髪、大きく鋭い黒い瞳、額にぐるりと巻かれた白いバンダナ。
上半身裸の上に黒い革ジャケットを羽織り、下半身には余裕のある白いズボンを履いていた。俗に言うヤンキーというか、そういった類の人間のように舞香は見えた。
「どんな【奇跡】だぁ? ええ?」
ぐび、ぐび。
持っているひょうたんの中身は恐らく酒だろう。ここからでも嫌なアルコールの匂いがふんわりと伝わってくる……明らかに未成年だった。
(なるほど、口に含んだアルコールを吹き散らして火炎放射……ってわけね)
舞香は針川をかばうように少年の前に立ち、腰に差した小刀の柄に手を触れた。
「不意打ちで炎なんて随分危ないじゃない。私みたいな女の子の顔に傷が付いたらどうしてくれるのかしら?」
「あ〜ん? 聞こえねぇなぁ聞こえねぇなぁ……女ぁ? ああ、そうだなぁ──関係ねぇだろそんなもん」
直後、少年の背後で爆発、爆風が巻き起こる。
それに乗るような形で、少年は恐るべき速度を以て舞香の懐に突っ込んできた。
「”灼腕”!」
そう叫ぶ少年の右拳はなんと赤く赤熱していた。炉から取り出した鉄のように、バチバチと眩い光を保ち、空が歪むほどの熱を帯びて!
「──ッ!」
「なっ……!?」
怯んで行動が一瞬遅れた。舞香は腰の刀を抜くのではなく、避けるでもなく……逆に、一歩、大きく踏み出した! そしてあろうことか、思いっきり頭突きを少年の鼻っ柱にねじ込んだのである!
「ぷっ、がぁっ……ッ!」
無様な声を出しながらも少年は赤熱した腕を乱暴に振るった。指先、光を放つ指先は……あと少しで舞香の両目を抉っているところだった。
(熱っ……!)
ジリリ、と。ふっ飛ばされつつあった少年の指が舞香の前髪をチリチリに炙ったところで、双方は互いに後方へと跳んで距離を取った。
「ふぅ、ふぅ……」
見誤ったと舞香は舌を打った。
あの少年の能力は確かに炎にまつわるものだった。しかしそれは炎を出すとかそういうチャチなレベルではない……もっと恐ろしい、もっと早くに気づくべきだった真実であった。
「痛えなぁ……へへっ、なんだよ。アイツの言う通りマジで【奇跡】ナシのゴリラ女じゃねぇかよ……」
(アイツ?)
アイツ。
舞香と少年、それ以外の第三者。少年の言葉をそのまま鵜呑みにするのであれば、舞香の情報を第三者がこの少年に流したことになる……【奇跡】を持たず、しかし持って生まれた者たちに引けを取らない戦いをしてみせるイレギュラー的存在の情報を。
「ねぇアンタ、私のこと知ってるの? 誰から聞いたの?」
「答える義理なんざねぇなぁ! 知りたきゃ、俺に勝ってからにしやがれ!」
そう言って少年は羽織っていた黒い革ジャンを脱ぎ捨てる。直後、彼自身の鍛え上げられた肉体が露わになり……そして、すぐさま右腕と同じように赤く赤熱していった。
「自己紹介がまだだったな、神裂舞香」
「……!」
刀の柄に手を置きながら、舞香は確信した。
「俺は
こいつは多分、”強い”と。
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