第69話

廊下で私の前を杖をついて歩いている男性がいた。


その男性は、キーホルダーを落とした。


「あのう、落としましたよ」


そのキーホルダーを拾って、渡そうとした時、これは私が無くしたものと気づいた。

そしてその男性は振り向いた。


工藤飛鳥、私を命がけで助けてくれた極道。


でも私の記憶の中に彼はいない。


「これ」


私はキーホルダーを渡そうとしたが、両手で松葉杖をついているので、受け取れない。


杖の金具についていたらしく、私はつけてあげた。


「これで大丈夫ですね」


私はニッコリ微笑んだ。


俺はいきなり目の前に、まゆが現れて、戸惑った。


でも、俺のことはわからない様子だった。


それならそれでいい。


もう、俺なんかと関わっちゃダメだ。


「ありがとう」


一言だけ、そう言って、背をむけた。


しかし、まゆは「待ってください」と俺を呼び止めた。

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