第56話

そんなある日、工藤さんのマンションにある男性が訪ねてきた。


服部祐志、服部総合病院の外科医、そして、私の愛する男性だ。


「まゆを返してもらう」


「借金はどうする」


工藤さんは鋭い目で祐志さんを睨んだ。


「自分が払う」


「ほお、いいのか、まゆは毎晩俺と身体を重ねてるんだぞ」


嘘ばっかり、でも表向きは工藤さんの女なんだから、そう振る舞えと言われていた。


「構わない」


「でも、まゆは俺と先生とどっちに抱かれたいかだな」


「まゆ、どっちに抱かれたいんだ」


「私は工藤さんが好きです」


「まゆ、もう偽らなくていいんだ、俺はまゆのためなら迷惑とは思わない」


私は、身体の震えが止まらない。


祐志さんの言葉に、嘘をついている自分をもう、誤魔化せないと感じていた。


自然と身体が祐志さんの方に向かった。


祐志さんは私をギュッと抱きしめてくれた。


涙が頬を伝わった。

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