第55話

私は彼のマンションへ向かった。

オートロックの入り口のドアのインターホンを鳴らすも、相変わらず応答はなかった。

そこへ颯がコンビニから戻ってきた。

私の姿を見かけると、声をかけてきた。


「凛、何をしているんだ」


私は声のする方へ視線を向けた。

そこには颯が立っていた。

私は思わず彼に抱きついた。


「颯、アパート解約しちゃって今晩泊まるところがないの、泊めて?」


私の申し出に対して彼は目を細めて答えた。


「あいつのところに泊めて貰えばいいだろ?」


「だって好きじゃない男性の部屋に泊まる訳には行かないから、だから颯の部屋に泊めて?」


彼は少し考えて答えた。


「それなら俺の部屋もまずいんじゃないか」


「だって颯のことは大好きだから問題ないよ」


彼は信じられないと言った表情を見せた。

私は「颯、お願い」と顔の前で両手を合わせて懇願した。


「一晩だけな」


私は思わず笑顔になり「ありがとう」と言った。

彼は照れた表情を見せて、マンションに入れてくれた。


「荷物どうしたんだ」


「まとめてアパートに置いてあるの、明日中に部屋空けないといけないから、取りに行かないと」


「そうか、あいつに一緒に取りに行って貰えばいいんじゃないか」


彼はそう言って私から視線を逸らした。


「だから、廉とはなんでもないから」


「なんでもないのにキスしてたのか」


彼は声を荒げて私に食ってかかった。


「キスなんてしてないよ」


私は彼とは反対に静かに答えた。

そう、彼は廉に嫉妬していた、私の気持ちが廉に向いていると勘違いをして・・・

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