第53話

廉のマンションに近づいた時我に返った。


「廉、ごめんなさい、私は廉をもう愛していないの、だから、あなたには着いていけない」


私の突然の言葉に廉は動揺を隠せなかった。


「凛、あいつは凛を手放したんだ、目を覚ませ」


「お願い、車を停めて」


廉は車を停めた。

私は車から降りようとドアに手をかけた。

その手を掴み、「凛、行くな」と私を止めた。


「廉、ごめんね、彼の元に行かせて」


廉は大きなため息をついた。

そして車を彼のマンションに向かわせた。


「廉、ありがとう」


「凛、俺は諦めないから」


私は廉に背を向けた。


彼のマンションのオートロックのインターホンを押した。

いくら押しても応答はなかった。

私はなんて事をしてしまったんだろうと、後悔の念に駆られた。


マンションの外に立っていると雨が降って来た。

まるで私の大粒の涙が雨に変わり、辺りの音を消した。

次に気づいたのは初めて見る天井の景色だった。


「やっと気づいたか?」


聞き覚えのある声の方へ視線を移すと、そこには廉の姿があった。


「廉、ここは何処?」


「俺のマンション」


颯のマンション前に戻って、雨が降ってきて、そこから覚えていない。


「あいつのマンション前で急にぶっ倒れたんだ、だから俺のマンションに運んだ」


「ごめんなさい、迷惑かけて」

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