第52話

「颯、待って」


私は必死に彼を追いかけた。

彼の腕を掴み、「颯、話を聞いて」と彼を振り向かせようとした。


彼は私の顔を見ようともせず、「手を離してくれ」と弱々しい声を出した。


「いや、今手を離したらもう二度と颯と会えなくなっちゃう」


「凛、あいつなら凛を幸せにしてくれる、一緒に年を重ねて生きていける、だから、あいつのところへ行け」


彼は私に背を向けたまま、涙声でそう訴えた。


「いや、颯と離れたくない、颯が好きなの、颯と一緒にいる事が私の幸せなの」


「俺はずっと凛と一緒にいてやれない、だから・・・」


「少しでもいいから、お願い、颯」


私は涙が止まらなかった。


「凛、ごめん、俺はお前の人生に責任を持てない」


彼は私の手を振り解いて、オートロックのドアの向こうに消えた。

私は立つ気力さえも失い、その場に座り込んだ。


廉が私の肩を抱いて、支えてくれた。

そして私を車に乗せ、その場を後にした。


彼はオートロックのドアの向こうから、去っていく車を見送り、「凛、幸せになってくれ」と呟いた。


なんでこんな事になったの?

私は自分の軽率な行動を呪った。

誰のせいでもない、全て自分が悪いのだから。


廉は私の手を握り、「俺のマンションに行こう」と私に囁いた。

私は何も考えられず、途方にくれた。

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