第44話

私は久しぶりにアパートへ戻った。

やっぱり住み慣れた場所は落ち着くと気持ちが緩んだ。

早速洗濯したり掃除をしてさっぱりした。

すごく気持ち良かった。


ふっと彼の表情が脳裏を掠めた。

なんであんなに側にいてくれと懇願していたのにアパートに帰った方がいいと言ったのだろうか。

急に彼の事が心配になり、その日の夜彼のマンションへ向かった。


インターホンを押すと「どなたですか」と彼のか細い声が聞こえた。


「凛です」


「どうしたんだ」


「アパートの掃除終わったので、夕飯作ろうと思って、開けてくれますか」


しばらく沈黙が続いた。


「凛、今日は久しぶりにアパートでゆっくり寝た方がいいと思う、気をつけて帰ってくれ」


そしてインターホンは切れた。

えっ、どう言う事?


またインターホンを押した。


「はい」


「颯さん、開けてください」


「悪いが帰ってくれないか、あっ、そう言えば昨日祐から連絡があった、了解しておいたからよろしく頼む」


またインターホンが切れた。

私は拒絶されてる、どうして?


その時彼は我慢していた、今すぐにでもオートロックを開錠して私を招き入れ、抱きしめたい気持ちで一杯だった。

彼は私との別れを決意していた。

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