第40話

部屋に入ると、彼は薬を飲んだ。

ソファに座り、私に隣に座るように促した。


「あいつは誰?」


「以前お付き合いをしていた人です」


「まだ続いてるのか?」


「まさか、もう別れて十年になりますよ」


彼は納得いかない様子で私を見つめた。


「だってあいつの凛を見る目は諦めてないって感じだった」


私はキョトンとした表情で彼を見つめた。


「なんて顔してるんだよ、わからなかった?あいつはまだ凛に惚れてる」


「でも、十年前別れた時、玉森コーポレーションの役員の方が、社長には婚約者が決まっているので、社長と別れてくださいと言われたんですよ」


「それで凛が身を引いたのか」


「そうです、だからもう当時の婚約者の方と結婚してますよ」


彼はスマホで玉森廉を検索し始めた。


「凛、あいつはまだ独身だぞ、結婚歴は無い」


「そうなんですか」


「十年前の婚約者は取引先のご令嬢で、取引先と契約破棄になったそうだ、相当の違約金を払ったらしい」


私の頭の中で当時の事がぐるぐる回り始めた。

その時、彼は私を引き寄せて抱きしめた。


「凛、今あいつからやり直そうって言われたら、凛は俺に背を向ける、そんな事わかってる、でも俺だけ見てくれ」


彼は弱々しいやっと絞り出した声で私に囁いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る