第38話

俺は凛を抱いた。

狂おしい位に愛おしくて堪らなかった。

絶対に手放したくなかった。

限られた時間を凛と過ごしたい、もう、他の事は考えられなかった。


「凛、何処にも行かないで、俺の側にいてくれ」


「大和さん」


「颯って呼んでくれ」


「颯」


「あ〜っ、凛、このまま時間が止まってほしい」


その時時刻が七時を刻んでいた。


「颯さん、仕事行く時間は大丈夫ですか?」


「ヤバイ、遅刻だ、これ、部屋の鍵、凛に預けるから、凛がアパートに戻ったら俺、部屋に入れないからな」


「えっ?」


「じゃ、行ってくる」


「行ってらっしゃい」


「いいな、これから凛が毎日送ってくれて、迎えてくれるんだな、決まりな、アパート解約しちゃえよ」


いやいや、勝手に決めてもらっては困る。

でも取り敢えず今日は、私が颯さんのマンションにいないと、颯さんが入れないんだよね。


買い物行って夕飯の食材買わないと・・・

私はスーパーに買い物に出かける為マンションを出た。

颯さんは何が好きなんだろうか、そんな事を考えて歩いていると「凛」と私を呼ぶ声が聞こえた。


聞き覚えのある声だった。

振り返ると、以前私が付き合っていた元彼、玉森コーポレーション社長 玉森 廉(たまもり れん)三十八歳だった。

廉と付き合っていたのは、十年前になる。

十年ぶりの再会である。

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