第7話

次の週の火曜日、渋谷の美容室フェニックスに向かった。

店に入ると営業している様子は伺えず、彼がひとりで出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ、どうぞ」


「ありがとうございます」


彼はじっと私を見つめていた、恥ずかしくなり、視線を反らした。


「ここに座って」


「あのう、今日はお店はお休みですか」


私は案内された席に座りながら尋ねた。


「そうだよ、凛と二人の時間を過ごしたかったから」


彼は鏡越しに熱い視線を私に向けた。

固まったまま身動き出来ず、私はじっと彼を見つめた。


「そんなに見つめられると照れるな」


彼はそう言いながら私の髪を撫でた。

ぞくっと身体が反応し、息していない事に気づき苦しくなった。

深呼吸して彼から視線を反らした。


彼は真剣な眼差しでカットを始めた。

すごい、ハサミの動きが流れるように髪をカットして行く。


「どうかな、これ位毛先に動きがあった方が凛には似合うと思うよ」


鏡に映った私はまるで別人だった。


「流すからシャンプー台に移ってくれる?」


「あっ、は、はい」


シャンプー台に座り、背もたれが倒されて、彼が私の顔を覗き込んだ。


「シャンプーしていくね」


「あの、顔にカーゼ掛けないんですか?」


「カーゼかけたら、凛の可愛い顔が見えないだろう」


えっ?このまま彼と至近距離でシャンプーするの?

マジ、無理、ドキドキが速度を上げていく。


「あのう、カーゼかけてください」


「恥ずかしいなら目を閉じてれば?」


私は彼に言われたまま目を閉じた、次の瞬間、彼は唇を重ねてきた。


「な、なにするんですか」


「だって、凛がキスしてって目を閉じたから」


「そ、そんな事言ってません」


顔が真っ赤になるのを感じた。


「やっぱり凛は可愛いな」


彼はそのままシャンプー台に横になっている私の唇を塞いだ。

そのまま彼のキスを受け入れてしまった。

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