第四章 君は誰?

第39話

いつものように彼を起こしに行くと、苦しそうにしている彼がいた。

「麻生さん、大丈夫ですか?」

彼の答えは無く、救急車を呼び、入院する事になった。

彼の意識は戻らず、ずっと昏睡状態だった

私は先生から呼ばれて、そこで初めて彼の病状を告げられた。

「奥様ですね、麻生さんから聞いています

麻生さんの病状ですが、脳腫瘍です。二年前にご本人には伝えたのですが、手術を受けずに薬でとの希望でした」

彼はやはり病気だった、とても難しい場所にある腫瘍だった。

「手術はリスクを伴います。たとえ成功しても認知機能障害など、後遺症の覚悟はして頂く必要があります」

心臓の鼓動が早くなり、どうして良いかわからなかった。

「薬で完治する事は、大変難しいと思われます」

「手術はリスクを伴い、薬は完治が難しいなら、どうすればいいんですか?」

大変な決断を余儀なくされ、彼の人生の選択をしなければいけない私は先生を責めた。

 私は少しの間時間を貰う事にした、そして

病室でしばらく彼の寝顔を見ていた。

手術は希望していない、だけど成功すれば生存率は上がる、だけど私の事忘れちゃう可能性は高いのだ。

彼と私の出会いは奇跡だと思っている、奇跡は一度しか起きない、だから奇跡って言うのだから・・・

彼が私を忘れて、また好きになってくれる可能性はゼロに近い、いや、たぶんゼロだろうなあ~。

 私は先生の元へ向かった。

「手術をお願いします」

「ご本人は望んでいませんが、よろしいですか?」

「彼はまだ若いので、これからの人生を生きていける可能性に掛けたいと思います」

「後遺症で認知機能障害が起こる確率は高いですが、よろしいですね」

「大丈夫です」

彼の手術が決まった。

 緊急手術が始まり、永い時間が流れた。

彼との生活、結婚、左手の薬指の指輪、彼との甘いキス、初めての経験、妊娠。

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