第35話

そんな矢先、彼が女性とキスしているところを見てしまった。

やっぱり、私は嫌われてしまったと涙が溢れてきた。

それから何処をどうして歩いたか覚えていない、たどり着いたのは産婦人科だった。

「先生、出産止めたいのですが」

私は彼に迷惑掛けたくない一心で、他に何も考えられなかった。

「落ち着いてください、ご主人さまはご一緒ですか?」

取り乱している私の様子を不思議に思い、深呼吸するように促してくれた。

「ご主人さまの同意が無ければ、中絶手術は出来ませんよ」

「でも、彼は責任感が強いので、子供を望まなくても出産の道を選ぶと思います、彼女が可哀そうです」

「彼女?ご主人さまの彼女ですか?」

私は先生の言葉に大きく頷いた。

「私達、契約結婚なのです、彼は身の回りの世話をしてくれる女性を探していて、税金対策の為結婚したのです、彼女の存在は確認したのですが、彼女はいないと言っていましたでもやっぱりいたのです、当たり前ですよ、二十五歳の彼が私に本気になるなんてありえないですから」

先生にすべてを話した。

「分かりました、今日はここに泊まって明日ゆっくり考えましょうか?」

ゆっくりも何も、私は彼の人生に割り込んだ厄介者だと言う事実は消せない。

おとぎ話のような、白馬の王子様が現れて私がお姫様になるなんて、やっぱりありえない事なのだ、どうしよう、どうしよう、もし私が彼女の立場だったら居たたまれない気持ちになった。

税金対策とはいえ、結婚して、彼の優しさに甘えて、その気になっちゃって、出産しようとしているなんて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る