第17話

この時、私は彼を失う事の怖さを感じた。

私より若いから、絶対私が残される事は無いと確信していたが、でも手の震えが止まらない、すごく取り乱していた。

涙が溢れて、どうしていいか分からない。

彼はそんな私を優しく抱きしめてくれた。

「あゆみ、大丈夫だから、あっそうだ、子供作れば一人にならないよ」

私は、彼の言葉を冗談として交わす余裕は無かった。

「私を絶対に一人にしないって約束してください」

私は泣きながら自分の気持ちをぶつけた。

大袈裟かもしれないが、この時嫌な予感が脳裏を掠めた。

「分かった、約束する」

彼は真面目な顔で答えてくれた。しかし、ふっと目を伏せて視線を反らした、その意味する事を分からずにいた。

 それから暫く、彼はこの間の様な様子は見せず、平穏な日々が流れた。

当たり前の毎日が嬉しくて、私は彼が寝てからそっと寝室へ行き、暫く彼の寝顔を見る事が日課になっていた。

安心したような彼の寝顔を見て、私も心のバランスが取れている感じがした。

 ある日、いつものように彼の寝室へ寝顔を見に行くと、苦しそうに顔を歪めていた。

彼が譫言の様に言った「あゆみ、ごめん」と、何?どういう事?

この時、彼は何かを隠していると悟った。

 次の日彼は仕事が休みで、夕方からデートをする事になった。

「何処か行きたいとこある?」

彼は楽しそうに私に話しかけた。

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