第16話

「あゆみ、俺の事好きって言ってくれたけど愛しているわけじゃないって事?」

もうまた難しい質問、なんて答えればいいの?分からないよ~

「麻生さんの事、大好きです」

「俺さあ、あゆみを抱きしめるのではなく

抱きたい」

もうどうして言葉にすると恥ずかしいと思う言葉をはっきりと言えるの?

返す言葉が見つからない。

彼は私の手を取って引き寄せた。

「あゆみを抱きたい」

え~どうしよう。

返事に困っている私は、なんか言わなくてはと思い顔を上げた瞬間、彼のちょっと苦しそうな表情に気づいた。

「麻生さん、大丈夫ですか」

彼はちょっと顔を歪め、大きく深呼吸をした

「病院へ行きましょう」

今にも泣きそうな私を見て、やっと声を発した。

「大丈夫だよ、心配しなくても、ちょっと疲れただけ」

彼の顔は大丈夫な表情では無かった、呼吸も荒く、苦しそうだった。

ベッドに横になるように促し、私はずっと彼の傍らに寄り添っていた。

 どれ位の時間が過ぎただろうか、彼が目を覚ました。

私の手を取り、優しく言葉を掛けてくれた

「ごめん、びっくりしたよね、もう大丈夫だから」

「病院へ行かなくても大丈夫ですか」

小刻みに震えていた私の手をぎゅっと握ってくれた。この時彼の人生が限られた時間しか無い事を知るすべは無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る