第128話

「美希、一緒に帰ろう」


「誰?」


「俺だよ、亮二だ」


由梨は健吾の後ろに隠れた。


「いつもこうなんです、朝になると記憶がリセットされるんです」


「記憶がリセットされる?、アルツハイマー型認知症なんだろう、由梨は」


「いいえ、アメリカの名医と呼ばれる医者の見解では、症状は良く似ていますが、

心因性健忘症とのことです」


「五年間、その繰り返しだったのか」


「はい、でも私は苦ではありませんでした、美希を愛していますから」


「信じられない」


「いいでしょう、今晩、美希をお願いします、明日の朝、西園寺さんを覚えていないようなら、美希は私が連れて帰ります、毎朝はじめましてなので、お恥ずかしい話ですが、

美希とキスもしたことがありません」


(えっ、俺、さっき、由梨とキスしたけど……)


「わかりました、でも、誰のそばにいたいかは、本人が望むことを最優先するのが一番じゃないですか」


「そんなこと、美希に決められません」


健吾はあまりの過保護に苛立ちを覚えた。


「あんたが由梨にしていることは、本人のためにならねえんじゃねえか」

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